政策の費用対効果を考えるための新たな枠組みの提案―生産、消費、労働など多分野への応用に期待―

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 課税や公共支出といった政策の評価に際しては、徴収額や支出額といった「目に見える」金額部分だけでなく、個人や企業といった経済主体の行動変容に伴う損失など「目に見えない」金額部分についても評価も伴うことで、費用対効果を検討することが望まれます。その際には、経済主体が活動する市場の特性を考慮することが重要であり、現代においては、多くの市場が不完全競争的であると考えられるものの、現代の経済学においては、このような問題を検討するフレームワークの整備が十分になされているとは言えません。

 そこで、安達貴教 経営管理研究部・経済学研究科准教授とミハル・ファビンガー氏(現:Acalonia代表)の共同研究チームは、主に財市場における消費に対する課税を念頭に、効率性評価を行う分析の枠組みを提示し、この未解決課題に対しての解答を与えることに成功しました。今後は、この研究をステップに、無駄の少ない課税や公共支出の効率的な利用についての意識の醸成につながる、多様な問題設定での応用が期待されます。

 本研究成果は、公共経済学・財政学分野で代表的な国際学術誌の一つである「Journal of Public Economics」第211巻(2022年7月号)に掲載されました。

文章を入れてください
従量税と従価税が課されている不完全競争的な市場における、消費者余剰・生産者余剰・税収の概念図

研究者のコメント

「経済学には、現下の具体的な経済問題に対して一定の解決策を提示しようとする速効性を目指す役割のみならず、社会経済システムの基礎的理解を促すことから生じうる遅効的な効果も求められるでしょう。特に後者に関しては、知的関心を持つ市民に対して、そもそもの問題の所在や、それに対する学術的視点を明らかにすることで、「常識では気付かない視点」あるいは「知る楽しみ」に資することが期待されます。本研究はどちらかと言えば後者の部類に属しますが、しかし、速効性や遅効性は混在しており、自由の精神で研究に取り組んでいくことが何よりも重要なことと考えています。」(安達貴教)

研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1016/j.jpubeco.2021.104589

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/275643

【書誌情報】
Takanori Adachia, Michal Fabinger (2022). Pass-through, welfare, and incidence under imperfect competition. Journal of Public Economics, 211:104589.