AIとスーパーコンピュータで広大な銀河地図を解読―宇宙の成り立ちを決める物理量を精密に測定―

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 西道啓博 基礎物理学研究所特定准教授(兼:東京大学客員科学研究員)、小林洋祐 アリゾナ大学博士研究員、高田昌広 東京大学教授、宮武広直 名古屋大学准教授からなる研究チームは、現在世界最大の銀河サーベイであるスローン・デジタル・スカイ・サーベイ(SDSS)から得られた銀河の3次元分布(地球から見た奥行き方向および2次元角度方向)のデータと、宇宙の大規模構造の理論模型を比較し、「宇宙論パラメータ」と呼ばれる、宇宙の性質を決める基本的な物理量を測定しました。これを行うために、国立天文台のスーパーコンピュータ「アテルイⅡ」を用いて様々な宇宙論パラメータを仮定して宇宙の構造形成シミュレーションを実行し、その大規模データを人工知能(AI)技術のひとつであるニューラルネットワークに学習させることで、任意の宇宙論パラメータに対する理論計算を高速かつ高精度に実行できるソフトウェアを開発しました。つまり、今回の解析は銀河地図の観測とあらゆる宇宙論モデルのシミュレーションとの比較と同等になります。直接数値シミュレーションを用いてこの操作を行うには、現実的な時間では完了できないほど膨大な計算量が必要です。ニューラルネットワークに基づくモデルを用いることで、世界で初めてこのような解析が可能となりました。その結果、ダークマターの総量、および現在の宇宙の凸凹の度合いを表す宇宙論パラメータを、先行研究を上回る精度で測定することに成功しました。
 今回の手法は、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構のリードで現在開発が進んでいるすばる望遠鏡超広視野多天体分光装置Prime Focus Spectrograph(PFS)による広天域銀河サーベイのデータにも適用することができます。

 本研究成果は、2022年4月20日に、物理学専門誌「Physical Review D」にオンライン掲載されました。

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本研究に利用した、スローン・デジタル・スカイ・サーベイによる約100万個の銀河地図
(左上:一点一点が一つの銀河を表しており、中心に地球が位置している)と、薄い直方体領域の拡大図(左下)。左下図と同じ大きさの領域に対して、AIが導き出した宇宙論パラメータを採用した数値シミュレーションから予想されるダークマターの分布(右上)と、ダークマターが密集した場所に形成される銀河の分布(右下)。AIと数値シミュレーションが予想する銀河の分布には、実際の観測データとよく似た、銀河団やフィラメント、ボイドなどの特徴的パターンが見られる。(クレジット:西道啓博) 

研究者のコメント

「2015年のプロジェクト立ち上げから、シミュレーションデータベースの構築、機械学習の導入、模擬データを用いた綿密な検証を経て、ようやく本物の宇宙から測定されたデータの分析に辿り着くことができました。感無量です。とは言え、今回提案した手法をもってしても、観測データの全てを解釈するまでには至っていません。宇宙論分野においても、近年機械学習を中心とした人工知能技術の導入が急速に進み、様々な形での応用が検討されています。今後とも、人工知能と物理学者がそれぞれの得意分野で力を発揮し、協働することで、ダークマター、ダークエネルギーなどの宇宙の根源的な謎に迫っていきたいです。」(西道啓博)

研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1103/PhysRevD.105.083517

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/276731

【書誌情報】
Yosuke Kobayashi, Takahiro Nishimichi, Masahiro Takada, and Hironao Miyatake (2022). Full-shape cosmology analysis of the SDSS-III BOSS galaxy power spectrum using an emulator-based halo model: A 5% determination of σ₈. Physical Review D, 105(8):083517.