自ら流体中を泳ぐ「奇弾性体」の発見―生き物らしい自律的なマイクロマシンの仕組み―

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 水中を泳ぐ、という行動は、身体と流体の複雑な力学的絡み合いの産物です。地球上の生物の大多数を占める微生物の遊泳もその例外ではありません。このような微小遊泳の法則として、変形と遊泳の対応関係を表す遊泳公式が知られています。しかし、物体が柔らかい(弾性体)場合には、変形と遊泳が切り離せないため、これまでの遊泳公式は適用できません。そのため、弾性体の遊泳公式は長年の未解決問題でした。

 安田健人 数理解析研究所日本学術振興会特別研究員、Clément Moreau 同研究員と石本健太 同准教授らの研究グループは、従来の弾性体の拡張概念である「奇弾性体」が、流体中で自発的に遊泳することを理論的に発見し、その遊泳公式の導出に成功しました。

 「奇弾性」は、これまでの弾性体理論では存在し得ないとされてきましたが、生き物のようなエネルギー保存則を満たさない物体には存在することが、ごく近年になって分かってきました。本研究グループは、この弾性体の隠れていた基本的な性質に注目することにより、生き物のように自律的に泳ぐマイクロマシンの基本原理を明らかにしました。本研究成果は、自律的なマイクロマシンの開発と実現に向けた、基礎と応用の両面における貢献が期待されます。

 本研究成果は、2022年6月6日に、物理学会の学術誌「Physical Review E」にオンライン掲載されました。

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本研究の概念図


自律的に流体中を泳ぐ奇弾性マイクロマシン
微小遊泳の数理モデルであるパーセル・スイマーに、「奇弾性」を取り入れた流体数値シミュレーション。外部からの入力・制御がなくても、ひとりでに泳ぐ。

研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1103/PhysRevE.105.064603

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/274413

【書誌情報】
Kenta Ishimoto, Clément Moreau, Kento Yasuda (2022). Self-organized swimming with odd elasticity. Physical Review E, 105(6):064603.

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