北川宏 理学研究科 教授、吴冬霜 同特定助教、草田康平 白眉センター特定准教授(兼・理学研究科連携准教授)、古山通久 信州大学教授らの研究グループは、貴金属と呼ばれる全ての元素(金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os))を原子レベルで均一に混ぜ合わせたナノメートルサイズの合金(ナノ合金)の開発に世界で初めて成功しました。
合金の歴史は今から約5000年前の青銅器時代に遡りますが、人類が全ての貴金属元素を原子レベルで混ぜ合わせて合金にしたのは今回が初めてです。また、多元素から構成されるナノ合金では、ナノ合金を構成するそれぞれの原子は多種の異元素に囲まれ、その取り得る局所的な原子配置はナノ合金の構成原子数を遙かに上回ります。そのため、貴金属8元素合金を構成する各原子は、単一成分の時とはまったく異なる電子状態を持っていて、元の性質とは大きく異なる個性を有する新しい原子として生まれ変わることを、第一原理計算により明らかにしました。さらに、貴金属8元素合金は水電解の陰極(還元)反応である水素発生反応電極触媒として、市販のPt触媒と比較して10倍以上高い活性を示すことを明らかにしました。金、銀、オスミウムなど、従来から水素発生反応触媒としては機能しないと考えられてきた元素を加えたにも拘わらず、このように格段に触媒活性が向上したことは、多元素が原子レベルで混合したことにより、不活性な元素が反応を促進する電子状態を持つ原子へ、あるいは活性な元素がさらに高活性な原子へと、新しく生まれ変わっているためと考えられます。
この結果は、従来の金属触媒では達成できなかったその他の高難度な反応に対しても、多元素からなるナノ合金触媒が高活性をもつ可能性を示しています。
本研究成果は、2022年2月16日に、国際学術誌「Journal of the American Chemical Society」にオンライン掲載されました。
【DOI】https://doi.org/10.1021/jacs.1c13616
Dongshuang Wu, Kohei Kusada, Yusuke Nanba, Michihisa Koyama, Tomokazu Yamamoto, Takaaki Toriyama, Syo Matsumura, Okkyun Seo, Ibrahima Gueye, Jaemyung Kim, Loku Singgapulige Rosantha Kumara, Osami Sakata, Shogo Kawaguchi, Yoshiki Kubota, Hiroshi Kitagawa (2022). Noble-Metal High-Entropy-Alloy Nanoparticles: Atomic-Level Insight into the Electronic Structure. Journal of the American Chemical Society, 144(8), 3365-3369.
朝日新聞(3月14日夕刊 3面)、毎日新聞(3月30日 24面)および京都新聞(4月6日夕刊 1面)に掲載されました。