成人T細胞白血病リンパ腫の多段階発がん分子メカニズムを解明 -難治性疾患の新規治療標的候補を複数同定-

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 小川誠司 医学研究科教授、古屋淳史 国立がん研究センター研究所主任研究員、斎藤優樹 同任意研修生、片岡圭亮 慶應義塾大学教授、下田和哉 宮崎大学教授らの研究グループは、最新技術である単一細胞マルチオミクス解析を用いて、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)感染を原因とする成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)の多段階発がん分子機構を解明しました。 

 今回の研究の主な成果は以下の点です。
 (1)世界的にも最新の技術である単一細胞マルチオミクス解析を用いて、HTLV-1感染を原因とするATLの多段階発がん分子機構を解明しました。

 (2)HTLV-1感染細胞を単一細胞レベルで正確に同定し、HTLV-1感染細胞のクローン拡大およびATLへの進展に伴う細胞動態の変化を分子レベルで網羅的に明らかにしました。その過程で、新たなHTLV-1感染関連分子やATL進展関連分子を複数同定し、新たな治療標的候補となりうることを実験的にも証明しました。

 (3)HTLV-1感染やATL発症に伴う免疫微小環境の変化、そして腫瘍細胞の遺伝子異常による微小環境の変容などのさまざまな事象が、多くの機能解析実験と組み合わせることで紐解かれました。

 これらの成果は、HTLV-1感染からATLへの進展に至るまでの非常に長い期間における多段階の発がん分子機構を網羅的に明らかにした初めての研究であり、新たに同定した感染や腫瘍化に関連する分子や、免疫環境動態の変化は診断のためのバイオマーカーや新しい治療標的にもなり得るため、難治性疾患であるATLの診療に役立つことが期待されます。

 本研究結果は、2021年9月3日に、国際学術誌「Blood Cancer Discovery」に掲載されました。

本研究の解析の流れ
図:本研究の解析の流れ
研究者情報
書誌情報

【DOI】https://doi.org/10.1158/2643-3230.BCD-21-0044

【KURENAIアクセスURL】http://hdl.handle.net/2433/265164

Junji Koya, Yuki Saito, Takuro Kameda, Yasunori Kogure, Mitsuhiro Yuasa, Joji Nagasaki, Marni B. McClure, Sumito Shingaki, Mariko Tabata, Yuki Tahira, Keiichi Akizuki, Ayako Kamiunten, Masaaki Sekine, Kotaro Shide, Yoko Kubuki, Tomonori Hidaka, Akira Kitanaka, Nobuaki Nakano, Atae Utsunomiya, Yosuke Togashi, Seishi Ogawa, Kazuya Shimoda, Keisuke Kataoka (2021).Single-Cell Analysis of the Multicellular Ecosystem in Viral Carcinogenesis by HTLV-1. Blood Cancer Discovery, 2(5), 450-467.