原発性胆汁性胆管炎の新たな遺伝要因を同定 -ヒト全ゲノム領域へのRHM法による世界初の成果-

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 長﨑正朗 学際融合教育研究推進センター特定教授、Gervais Olivier 同研究員(研究当時)、徳永勝士 国立国際医療研究センタープロジェクト長らの研究グループは、中村稔 長崎大学教授(国立病院機構長崎医療センター客員研究員)らの研究グループが世界規模で臨床研究を進めている、原発性胆汁性胆管炎(primary biliary cholangitis;PBC)(合計1,953人)の日本人遺伝子データベースと日本人の一般集団の全ゲノムデータベース(合計3,690人)との比較を行いました。

 その結果、日本人では今まで報告がない3箇所の新規領域を含む、合計7箇所の染色体上の疾患に関わる候補領域を、ほとんどヒトゲノム情報に適用されたことがないポリジェニック効果を考慮した手法、領域内遺伝率推定法(Regional Heritability Mapping法; RHM)による、ゲノム解析から同定しました。

 また、再現性を確認するため、3か所の新規染色体対象領域に含まれるSNP(一塩基多型)のうち、統計量が一番有意であったSNPについて、前述の集団とは独立したPBC患者(合計220人)と、上田真由美 京都府立医科大学特任准教授から提供された一般集団の全ゲノム情報(合計271人)との間で遺伝型の頻度に有意差があるか解析を行いました。その結果、日本人では今まで報告がない3箇所の遺伝子領域(STAT4、ULK4、KCNH5)いずれについても疾患に関係することを再確認できました。

 さらに、これら3か所の遺伝子のうち特に海外でも報告例がないULK4とKCNH5について、PBCの患者由来の遺伝子と非罹患群の遺伝子のトランスクリプトーム発現量を比較ました。その結果、ULK4を含む領域についてPBC罹患群で発現上昇していることを見出しました。

 RHM法をヒト全ゲノム解析に適用することで新規の遺伝要因を同定したこと、独立した集団を用いてRHM法で同定された遺伝要因の再検証をする一連のスキームを確立したこと双方の成果が世界初になります。同手法は、PBC疾患以外の多因子疾患にも幅広く適用可能であり、今後さまざまな疾患にも適用することで一般的なゲノム情報解析手法では見逃されていた遺伝要因を新たに同定できると期待しています。    

 本研究成果は、2021年4月9日に、国際学術誌「European Journal of Human Genetics」のオンライン版に掲載されました。

PBC罹患群と一般集団とのゲノム情報解析結果の比較 提案手法RHM法(上)および、一般的なGWAS法(下)による。新規領域を赤下線で表示している。
図:PBC罹患群と一般集団とのゲノム情報解析結果の比較 提案手法RHM法(上)および、一般的なGWAS法(下)による。新規領域を赤下線で表示している。
研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41431-021-00854-5

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/262593

Olivier Gervais, Kazuko Ueno, Yosuke Kawai, Yuki Hitomi, Yoshihiro Aiba, Mayumi Ueta, Minoru Nakamura, Katsushi Tokunaga, Masao Nagasaki (2021). Regional heritability mapping identifies several novel loci (STAT4, ULK4, and KCNH5) for primary biliary cholangitis in the Japanese population. European Journal of Human Genetics, 29, 1282-1291.