S-1と内分泌療法の併用による乳癌術後療法の効果を証明 -エストロゲン受容体(ER)陽性HER2陰性原発性乳癌の新たな治療戦略-

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 戸井雅和 医学研究科教授、髙田正泰 医学部附属病院助教らの研究グループは、経口フルオロピリミジンであるS-1と内分泌療法の併用による乳癌術後療法の効果を証明しました。

 エストロゲン受容体(ER)陽性HER2陰性原発性乳癌は、少なくとも5年間の術後補助内分泌療法を行うことが標準となっていますが、予後には未だ改善の余地があり、新たな治療法の開発が必要です。

 そこで、本研究グループは、経口フルオロピリミジンであるS-1と術後補助内分泌療法の併用が、術後補助内分泌療法単独よりも予後を延長することを検証するため、多施設共同ランダム化非盲検比較第III相試験を行いました。対象は、ステージI~IIIBの浸潤性乳癌(中等度~高度の再発リスク)を有する20歳~75歳の女性としました。5年間の標準的術後内分泌療法を単独で受ける患者群と、標準的術後内分泌療法に1年間のS-1投与を併用して受ける患者群にランダムに振り分け、浸潤性病変のない生存(iDFS)が延長するかを観察しました。2012年2月1日~2016年2月1日に、1,930例が本試験に組み入れられ、957例(50%)に内分泌療法とS-1を併用、973例(50%)に内分泌療法を単独で施行しました。追跡調査期間中央値は52.2ヵ月です。内分泌療法単独群155 例(16%)およびS-1併用群 101例 (11%) にiDFSイベントが発生し、標準的術後補助内分泌療法にS-1を併用することにより浸潤性病変の発生リスクが37%低減されました(ハザード比0.63、95% CI 0.49~0.81、p=0.0003)。S-1と内分泌療法の併用は、中等度~高度の再発リスクを有するER陽性かつHER2陰性の原発乳癌患者における有望な治療オプションになり得ると考えられます。

 本研究成果は、2020年12月30日に、英国科学誌「The Lancet Oncology」にオンライン掲載されました。

本研究の概要図

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1016/S1470-2045(20)30534-9

Masakazu Toi, Shigeru Imoto, Takanori Ishida, Yoshinori Ito, Hiroji Iwata, Norikazu Masuda, Hirofumi Mukai, Shigehira Saji, Akira Shimizu, Takafumi Ikeda, Hironori Haga, Toshiaki Saeki, Kenjiro Aogi, Tomoharu Sugie, Takayuki Ueno, Takayuki Kinoshita, Yuichiro Kai, Masahiro Kitada, Yasuyuki Sato, Kenjiro Jimbo, Nobuaki Sato, Hiroshi Ishiguro, Masahiro Takada, Yasuo Ohashi, Shinji Ohno (2021). Adjuvant S-1 plus endocrine therapy for oestrogen receptor-positive, HER2-negative, primary breast cancer: a multicentre, open-label, randomised, controlled, phase 3 trial. The Lancet Oncology, 22(1), 74-84.