オートファゴソーム膜を伸ばす仕組みを解明 -オートファジー最後の未知たんぱく質の正体が明らかに-

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岩田想 医学研究科教授、 野田展生 微生物化学研究所 部長 、的場一晃 同上級研究員らの研究グループは、オートファジーを担うたんぱく質群のうちの1つであるAtg9が脂質二重層の2つの層の間でリン脂質を往来させる活性(脂質スクランブル活性)を持つことを発見し、その活性がオートファゴソーム膜の伸展を引き起こすことを明らかにしました。

細胞内のたんぱく質を分解する仕組みの1つであるオートファジーにおいて、オートファゴソームの形成は分解対象を決定する極めて重要なステップです。これまでに本研究グループは、脂質輸送たんぱく質Atg2がオートファゴソームを作るためのリン脂質を小胞体から運ぶことを明らかにしましたが、運ばれたリン脂質を使ってどのように膜が伸びるのか、その仕組みはわかっていませんでした。

本研究グループは、機能が分かっていなかった酵母およびヒト由来の膜たんぱく質Atg9が、脂質スクランブル活性を持つことを試験管内の実験で明らかにしました。さらに酵母Atg9の立体構造をクライオ電子顕微鏡で調べた結果、脂質二重層の2つの層をつなぐ細孔を持つことがわかりました。また、細孔を形成するアミノ酸に変異を入れたところ試験管内でのAtg9の脂質スクランブル活性が失われ、この同じ変異により酵母におけるオートファゴソームの形成も阻害されることを見いだしました。これらのことから、Atg9は新規脂質スクランブラーゼであり、脂質輸送たんぱく質Atg2と協力してオートファゴソームの形成に働くという全く新しい仕組みを明らかにしました。

本研究によりオートファジーの基本原理が解明され、今後のオートファジーの特異的制御剤の開発に向けた基盤となることが期待されます。

本研究成果は、2020年10月27日に、国際学術誌「Nature Structure&Molecurer Biology」のオンライン版に掲載されました。

図:Atg9とAtg2による隔離膜の伸展機構

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41594-020-00518-w

Kazuaki Matoba, Tetsuya Kotani, Akihisa Tsutsumi, Takuma Tsuji, Takaharu Mori, Daisuke Noshiro, Yuji Sugita, Norimichi Nomura, So Iwata, Yoshinori Ohsumi, Toyoshi Fujimoto, Hitoshi Nakatogawa, Masahide Kikkawa & Nobuo N. Noda (2020). Atg9 is a lipid scramblase that mediates autophagosomal membrane expansion. Nature Structural & Molecular Biology, 27(12), 1185-1193.