ヒトiPS細胞から再生したキラーT細胞の固形がんモデルにおける治療効果を確認 -汎用性T細胞製剤の臨床応用に向けて一歩前進-

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河本宏 ウイルス・再生医科学研究所教授らの研究グループは、嘉島相輝 医学部附属病院助教(現・秋田大学医学部附属病院助教)らと共同で、患者のがん組織を移植したマウスモデルを用いて、ヒトiPS細胞から再生した汎用性の高いキラーT細胞が、固形がんの一種である腎がんに効果があることを示しました。

これまでに、T細胞を患者から採取して、遺伝子を操作した上で患者に戻す方法が、がんの治療に有効であることが示されてきました。しかし、そのような自家移植で行う治療法は、コストが高く、時間がかかり、T細胞の品質が不安定であるなどの問題がありました。

本研究グループは、この問題を解決するためiPS細胞技術を使用し、他家移植用iPS細胞に臨床試験済みのT細胞レセプター遺伝子を導入し、そのiPS細胞からWT1抗原(がん抗原の一種)を認識できる再生キラーT細胞を再生しました。そして、その効果を検証する固形がんモデルとして、腎がんを対象としました。腎がん患者2人から、それぞれWT1抗原陽性と陰性の腫瘍組織を採取し、免疫不全マウスの背中にどちらも移植しました。このマウスに上記の再生キラーT細胞を投与した結果、WT1抗原陽性腫瘍の方で増大を抑制することが確認できました。

本研究成果は、固形がんを対象として他家移植用の再生キラーT細胞を用いるがん治療戦略を、臨床応用に向けて大きく前進させるものと考えられます。

本研究成果は、2020年4月7日に、国際学術誌「iScience」のオンライン版に掲載されました。

図:本研究の概要図

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1016/j.isci.2020.100998

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/250312

Soki Kashima, Takuya Maeda, Kyoko Masuda, Seiji Nagano, Takamitsu Inoue, Masashi Takeda, Yuka Kono, Takashi Kobayashi, Shigeyoshi Saito, Takahiro Higuchi, Hiroshi Ichise, Yuka Kobayashi, Keiko Iwaisako, Koji Terada, Yasutoshi Agata, Kazuyuki Numakura, Mitsuru Saito, Shintaro Narita, Masaki Yasukawa, Osamu Ogawa, Tomonori Habuchi, Hiroshi Kawamoto (2020). Cytotoxic T Lymphocytes Regenerated from iPS Cells Have Therapeutic Efficacy in a Patient-Derived Xenograft Solid Tumor Model. iScience.