iPS細胞を用いてヒト分節時計のメカニズムを再現 -生体の胚発生を模倣した実験系の確立と解析-

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Cantas Alev 高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(ASHBi)特定拠点准教授 らの研究グループは、iPS細胞研究所、理化学研究所、名城病院と共同で、ヒト人工多能性幹細胞(iPS)細胞を段階的に誘導する手法を開発し、脊椎の発生を試験管内( in vitro )で再現するモデルを確立しました。

本研究グループは、このモデルを用いて未分節中胚葉(PSM)から椎骨・肋骨・骨格筋・皮膚などの元となる体節の形成を段階的に再現することに成功しました。分節時計の主要な遺伝子の発現の視覚化により、ヒトの分節時計が5時間周期で振動することを発見し、マウスの分節時計が、実際の胚と同じく2~3時間周期である事を確認しました。誘導したPSMを用いたRNAシークエンス解析により、分節時計に関係する約200個の遺伝子を同定しました。さらに、分節時計の主要な遺伝子に変異を持つiPS細胞をゲノム編集により作成し、これをPSMに誘導し、遺伝子変異が分節時計に与える影響を明らかにしました。分節時計の遺伝子変異を有する疾患、脊椎肋骨異骨症の患者より樹立したiPS細胞でこの遺伝子変異を修正すると、分節時計の異常が回復することが確認できました。

本研究で確立したiPS細胞からPSMを経る段階的誘導法は、 in vitro での脊椎発生のプロセスの再現と再構成を可能にします。分節時計をはじめとするヒト脊椎形成の機構の解明、様々な脊椎疾患の病態の理解を深めることが期待されます。

本研究成果は、2020年4月2日に、国際学術誌「Nature」のオンライン版に掲載されました。

図:本研究の概要図

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41586-020-2144-9

Mitsuhiro Matsuda, Yoshihiro Yamanaka, Maya Uemura, Mitsujiro Osawa, Megumu K. Saito, Ayako Nagahashi, Megumi Nishio, Long Guo, Shiro Ikegawa, Satoko Sakurai, Shunsuke Kihara, Thomas L. Maurissen, Michiko Nakamura, Tomoko Matsumoto, Hiroyuki Yoshitomi, Makoto Ikeya, Noriaki Kawakami, Takuya Yamamoto, Knut Woltjen, Miki Ebisuya, Junya Toguchida & Cantas Alev (2020). Nature. Recapitulating the human segmentation clock with pluripotent stem cells, 580(7801), 124-129.

  • 日刊工業新聞(4月2日 25面)および日本経済新聞(4月6日夕刊 10面)に掲載されました。