神経幹細胞の再生能を発見 -細胞の「形」の柔軟性が脳の拡大に果たす役割-

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松崎文雄 生命科学研究科教授(理化学研究所チームリーダー)、藤田生水 理化学研究所研究員、下向敦範 同専門職研究員らの研究グループは、哺乳類の脳が作られる際に神経幹細胞が柔軟に「形」を再生する仕組みを発見しました。

脳の神経細胞(ニューロン)やグリア細胞を生み出す神経幹細胞は、非常に細長い柱状の細胞であり、発生途中の脳組織は、この柱が無数にひしめき合って構成されています。

今回、本研究グループは多光子顕微鏡などを用いて、マウス胎仔の脳組織に存在する神経幹細胞の形状変化を鮮明に捉えることに成功し、神経幹細胞が柱状の形態を柔軟に再形成することを明らかにしました。この再生能により、脳発生初期(図:増殖期)に神経幹細胞が細胞分裂するとき柱状構造が分断されたとしても、脳組織の細胞配置が保たれます。脳発生後期(図:神経産生期)になるとこの性質は失われ、柱状構造が分断された神経幹細胞が次第に蓄積していき、脳組織の中には別の神経幹細胞層が出現することも分かりました。この新たな幹細胞層の出現は、特にヒトのように大きくしわのある脳が形作られる際に見られる特徴であることが分かっており、今回の発見はその裏に潜む細胞の振る舞いを明らかにしたといえます。

本研究成果は、脳が形作られる基本的な仕組みや、その形成不全に伴う脳疾患の原因解明に貢献すると期待できます。

本研究成果は、2019年12月24日に、国際学術誌「Nature Cell Biology」のオンライン版に掲載されました。

図:頂端構造再生能と脳組織構造の関係

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41556-019-0436-9

Ikumi Fujita, Atsunori Shitamukai, Fumiya Kusumoto, Shun Mase, Taeko Suetsugu, Ayaka Omori, Kagayaki Kato, Takaya Abe, Go Shioi, Daijiro Konno & Fumio Matsuzaki (2020). Endfoot regeneration restricts radial glial state and prevents translocation into the outer subventricular zone in early mammalian brain development. Nature Cell Biology, 22(1), 26-37.