自然界で最小の励起エネルギーをもつ原子核状態の人工的生成に成功 -超精密「原子核時計」実現に大きく前進-

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瀬戸誠 複合原子力科学研究所教授、北尾真司 同准教授、吉村浩司 岡山大学教授らの研究グループは、産業技術総合研究所、理化学研究所、大阪大学、東北大学、ウィーン工科大学、高輝度光科学研究センターと共同で、トリウム229を用いて世界で初めてアイソマー状態を人工的に生成することに成功しました。

自然界には約3300種以上の原子核が存在しますが、この中で最小の励起エネルギーをもつ原子核がトリウム229です。この励起状態(アイソマー状態と呼ばれる)は、レーザーを用いて励起することができる唯一の原子核励起状態であり、これとレーザーを組み合わせることにより超精密時計(原子核時計)を実現することが可能となります。またトリウム229は宇宙膨張の謎の解明など、基礎物理研究の舞台(プラットフォーム)としても有益であると予想されています。

本研究では、大型放射光施設(SPring-8)の高輝度X線を用いた原子核共鳴散乱技術により、アイソマー状態を大量かつ自在に生成することが可能になりました。この手法は、放射線の少ないクリーンな環境下でアイソマー状態を自在に生成できるという利点があります。本研究成果によりアイソマー状態の研究が進展し、原子核時計の実現に向けて大きく前進するものと期待されます。

本研究成果は、2019年9月12日に、国際学術誌「Nature」のオンライン版に掲載されました。

図:トリウム229のアイソマー状態を人工的に生成する過程

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41586-019-1542-3

Takahiko Masuda, Akihiro Yoshimi, Akira Fujieda, Hiroyuki Fujimoto, Hiromitsu Haba, Hideaki Hara, Takahiro Hiraki, Hiroyuki Kaino, Yoshitaka Kasamatsu, Shinji Kitao, Kenji Konashi, Yuki Miyamoto, Koichi Okai, Sho Okubo, Noboru Sasao, Makoto Seto, Thorsten Schumm, Yudai Shigekawa, Kenta Suzuki, Simon Stellmer, Kenji Tamasaku, Satoshi Uetake, Makoto Watanabe, Tsukasa Watanabe, Yuki Yasuda, Atsushi Yamaguchi, Yoshitaka Yoda, Takuya Yokokita, Motohiko Yoshimura & Koji Yoshimura (2019). X-ray pumping of the 229Th nuclear clock isomer. Nature, 573(7773), 238-242.