神経幹細胞の休眠化・活性化機構を解明 -眠った神経幹細胞から神経細胞をつくりだす-

ターゲット
公開日

影山龍一郎 ウイルス・再生医科学研究所教授(兼・物質ー細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)副拠点長)、今吉格 生命科学研究科教授、末田梨沙 同博士課程学生、播磨有希子 ウイルス・再生医科学研究所研究員(現・ハーバード大学研究員)らの研究グループは、神経幹細胞の休眠化および活性化が2種類の遺伝子Hes1とAscl1によって制御されていることを発見しました。

神経細胞(ニューロン)の元となる神経幹細胞は、胎児期には盛んに増殖して多くの神経細胞を生み出しますが、大人になると神経細胞をつくる能力が低下した休眠状態になります。これまでの研究から、胎児期の神経幹細胞ではHes1とAscl1の発現が振動しており、この振動発現によって活性化状態になることがわかっていました。しかし、休眠状態に陥るメカニズムは明らかになっていませんでした。

本研究において、成体脳に内在する神経幹細胞を調べたところ、Hes1の発現が持続しており、一方Ascl1はHes1によって持続的に抑制されるために発現していませんでした。そこで、ウイルスベクターを用いて休眠状態の神経幹細胞にAscl1を導入したところ、成体脳に内在する神経幹細胞を活性化し、神経細胞を産生することに成功しました。つまり、Hes1の発現が振動するとき(Ascl1の発現も振動)に神経幹細胞は活性化し、持続するとき(Ascl1は発現しない)には神経幹細胞が休眠化することが明らかになりました。

本研究成果は、大人の脳疾患に対して、新たな神経細胞を補う治療法の開発につながることが期待されます。

本研究成果は、2019年3月13日に、国際学術誌「Genes & Development」のオンライン版に掲載されました。

図:本研究の概要図

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1101/gad.323196.118

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/237316

Risa Sueda, Itaru Imayoshi, Yukiko Harima and Ryoichiro Kageyama (2019). High Hes1 expression and resultant Ascl1 suppression regulate quiescent vs. active neural stem cells in the adult mouse brain. Genes & Development, 33(9-10), 511-523.