動物による種子散布メカニズムの一端を解明 -森の果実の豊凶が鳥のタネまきを左右する-

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直江将司 生態学研究センター博士課程学生(現・森林総合研究所主任研究員)、酒井章子 同准教授、正木隆 森林総合研究所企画科長の研究グループは、森全体の果実の豊凶が鳥による種子散布を左右することを明らかにしました。

本研究成果は、2018年10月11日に、米国の国際学術誌「American Journal of Botany」のオンライン版に掲載されました。

研究者からのコメント

私たちの研究では長期間維持されている大規模試験地を利用して、鳥による種子散布が年や植物の種類によって大きく異なること、さらに種子散布の違いは森の果実の豊凶で説明できることを明らかにしました。これまでに前例のない規模での調査で、3年の調査期間のうち3分の1を森で過ごすなどなかなか大変でしたが、種子散布の年変動や植物による違いを比較的シンプルに説明できたことを嬉しく思っています。他の植物や地域でも同様な関係が確かめられれば、動物による種子散布の仕組みがはっきり見えてくるのではと期待しています。

概要

自分で動くことのできない植物は、果実をエサとすることで鳥や獣などにタネをまいてもらっています(種子散布)。しかし動物の行動は複雑なため、実をつけてもまいてもらえないときも少なくありません。本研究グループは、ブナ林において、鳥が種子を運んだ割合や距離をいろいろな樹木(木本性つる植物を含む)を3年間にわたって調べたところ、森全体の果実量が多い時ほど鳥が種子を運ぶ割合が低くなること、また種子を運ぶ距離が短くなることが分かりました。

これは、果実が多いと食べ残しが増え、果実を探して移動する距離が短くなるためだと考えられます。また、森全体の果実量が同じ場合は、渡り鳥のほうが定住性の鳥よりも種子を遠くに運んでいることも示唆されました。本研究成果によって、森の果実の豊凶が鳥の行動を変化させることで種子散布を促進していること、また鳥の種類によって種子散布に果たす役割が異なる可能性が示されました。

図:本研究のイメージ図

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1002/ajb2.1173

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/234706

Shoji Naoe, Takashi Masaki, Shoko Sakai (2018). Effects of temporal variation in community-level fruit abundance on seed dispersal by birds across woody species. American Journal of Botany, 105(11), 1792-1801.