亜鉛欠乏症のメカニズムの一端を解明 -亜鉛不足はなぜ、さまざまな症状を引き起こすのか-

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神戸大朋 生命科学研究科准教授、武田貴成 同博士課程学生、駒井三千夫 東北大学教授、川村龍吉 山梨大学教授らの研究グループは、細胞外のATP(アデノシン三リン酸)の分解に関わる酵素の多くが亜鉛を必要とする亜鉛要求性酵素であることに着目し、亜鉛不足が細胞外におけるATPの蓄積、およびATPの分解産物であるアデノシンの減少を引き起こすことを世界で初めて明らかにしました。

本研究成果は、2018年8月22日に英国の科学誌「Communications Biology」のオンライン版に掲載されました。

研究者からのコメント

左から、神戸准教授、武田博士課程学生

日本人は潜在的な亜鉛欠乏状態である割合が高く、最近の報告でも先進国で唯一10~30%が亜鉛欠乏状態にあると報告されています。先日、亜鉛欠乏(低亜鉛血症)に対する亜鉛製剤も認可され、亜鉛欠乏症の治療も可能になりました。日本では、さらなる高齢化が進むことが確実であり、薬剤の過剰摂取などと相まって、亜鉛欠乏者の数はますます増加していくと考えられます。健康な高齢者は血清亜鉛値が高いなど、亜鉛栄養は生活の質(QOL)と密接に関わります。本研究成果は、なぜ、亜鉛が健康に重要なのかを示す根拠の一つになると考えています。

今後は、消化管からの亜鉛吸収効率を改善する食品因子の探索や亜鉛摂取の効率的なタイミングなどを明らかにし、人々の健康維持・増進に役立つ情報を提供したいと考えています。

概要

亜鉛は体内に約2g含まれる必須ミネラルです。体内で亜鉛が不足すると、皮膚炎や脱毛、味覚障害や下痢など、実にさまざまな症状(亜鉛欠乏症)が起こりますが、そのメカニズムに関しては、ほとんど明らかにされていませんでした。

本研究チームは、細胞外のATP(アデノシン三リン酸)の分解に関わる酵素の多くが亜鉛を必要とする亜鉛要求性酵素であることに着目しました。そこで、培養細胞とラットを用いて、通常の場合と亜鉛が欠乏した場合とで、それらの酵素の活性、また細胞外ATP代謝がどのように変化するのかを比較しました。その結果、亜鉛欠乏では各酵素活性が低下し、細胞外ATP代謝が遅延していることが明らかになりました。本研究成果は、亜鉛欠乏症のさまざまな症状が、細胞外のATPの分解の異常によって引き起こされていることを強く示唆する結果です。

図:本研究のイメージ

詳しい研究内容について