筋線維がなぜ長いのかを発見 -筋肉を増強するための新しい治療戦略に期待-

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土谷正樹 工学研究科教務補佐員、原雄二 同准教授、梅田眞郷 同教授らの研究グループは、正しい筋線維の形成に必須なタンパク質をふたつ発見し、それらの関係性とメカニズムを明らかにしました。

本研究成果は、日本時間2018年5月24日に、国際学術誌「Nature Communications」にオンライン掲載されました。

研究者からのコメント

私たちは日常生活を送るなかで、激しい運動時には筋線維がダメージを受けます。このダメージに対応し新しい筋線維が作り出されることで、筋肉の機能が維持されます。老化や筋肉の病気(筋ジストロフィーなど)によって、新しい筋線維を形成する能力が損なわれることから、寝たきりをはじめ様々な問題が生じます。今回、筋線維のかたちを決定するメカニズムの解明により、筋線維の形成を促進する新しい創薬ターゲットの候補を見つけたともいえます。超高齢化を迎える日本において、筋肉を増強する薬の開発が今後期待されます。

概要

筋肉は、細長い細胞(筋線維)が数多く集まって機能しています。筋線維は小さな筋芽細胞が細胞どうしで融合を繰り返し、融合後まっすぐに伸びることで形作られます。この筋線維に特有の細長い形は、筋肉が素早く収縮して体を動かすために必須ですが、筋線維の特徴的な形を決定するメカニズムは分かっていません。

本研究グループは、正しい筋線維の形成に必須なタンパク質をふたつ発見しました。ひとつは細胞膜にてリン脂質(膜を構成する分子)を外側から内側の方向に輸送する「リン脂質フリッパーゼ」と、もうひとつは細胞膜に掛かる力(ちから)を感知してカルシウムイオン(Ca 2+ )を細胞内に流入させる「ピエゾ1チャネル」です。詳しいメカニズムとして、リン脂質フリッパーゼが細胞膜リン脂質の内側と外側の分布のバランスを決めることで、ピエゾ1の働きを調節し、さらにCa 2+ シグナルを介した筋芽細胞の融合と融合後の伸びを制御していることを明らかにしました。今回の発見は、加齢や疾患による筋力低下に対して、筋線維の形成を促し筋肉を増強するための新しい治療戦略を構築する上で役立つことが期待されます。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41467-018-04436-w

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/231257

Masaki Tsuchiya, Yuji Hara, Masaki Okuda, Karin Itoh, Ryotaro Nishioka, Akifumi Shiomi, Kohjiro Nagao, Masayuki Mori, Yasuo Mori, Junichi Ikenouchi, Ryo Suzuki, Motomu Tanaka, Tomohiko Ohwada, Junken Aoki, Motoi Kanagawa, Tatsushi Toda, Yosuke Nagata, Ryoichi Matsuda, Yasunori Takayama, Makoto Tominaga, Masato Umeda (2018). Cell surface flip-flop of phosphatidylserine is critical for PIEZO1-mediated myotube formation. Nature Communications, 9, 2049.

  • 京都新聞(6月9日 29面)および毎日新聞(7月14日 27面)に掲載されました。