お財布にも環境にもやさしい化学反応を発見 -新規リン酸化酵素がATPでなくピロリン酸を利用する仕組み-

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三木邦夫 理学研究科教授(現・名誉教授)、藤橋雅宏 同助教、永田隆平 同博士課程学生(現・東京大学特任研究員)、跡見晴幸 工学研究科教授、佐藤喬章 同助教らの研究グループは、ピロリン酸を利用する新規リン酸化酵素を発見し、その酵素がピロリン酸を選択的に利用する仕組みを明らかにしました。
本研究成果は、2018年5月2日に国際学術誌「Nature Communications」にオンライン掲載されました。

研究者からのコメント

左から、藤橋助教、永田特任研究員

酵素の働く仕組みを解き明かし、応用したいと考えて研究を行っています。今回の研究成果は、生体内で普遍的に行われている酵素によるリン酸化反応についての知見です。この成果の利用により、安価な原材料をもとに、環境に優しい温和な条件での化学反応が実現できると期待されます。

概要

リン酸化反応は、生体内において代謝・遺伝子の発現制御・環境変化への応答といった多くの重要な場面に関わっています。また産業的には、抗菌薬や化粧品を使いやすくするためにも用いられています。生体内においてリン酸化反応を行うのは、リン酸化酵素と呼ばれるタンパク質です。この酵素はほとんどの場合、ATPと呼ばれる複雑な構造をした高価な化合物をリン酸基の供給源として利用します。一方で、ピロリン酸という単純な構造を持つ安価な化合物をリン酸基の供給源とする酵素もわずかに存在しています。

しかし、これらの酵素がどのようにピロリン酸を選択的に利用するのかは分かっていませんでした。本研究グループは、ピロリン酸を利用する新規リン酸化酵素を発見し、その酵素がATPでなくピロリン酸を選択的に利用する仕組みをX線結晶構造解析により明らかにしました。さらに、ピロリン酸の選択的な利用に関わるアミノ酸残基を目印にすることで、遺伝子データベース上に存在する膨大な機能未知遺伝子の中から、ピロリン酸を利用するリン酸化酵素の遺伝子を新たに見つけ出すことに成功しました。本研究の知見は、高価なATPを利用するリン酸化酵素を安価なピロリン酸を利用する酵素に改変する研究への足がかりとなり、酵素とピロリン酸をつかった環境にやさしく安価なリン酸化物生産法の産業利用を可能にすると期待できます。

図:新規リン酸化酵素の基質選択性のイメージ

新規リン酸化酵素は、 ATP よりもピロリン酸の利用に適した結合ポケットを持っており、それはさながら鍵と鍵穴の関係のよう。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41467-018-04201-z

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/231115

Ryuhei Nagata, Masahiro Fujihashi, Takaaki Sato, Haruyuki Atomi, Kunio Miki (2018). Identification of a pyrophosphate-dependent kinase and its donor selectivity determinants. Nature Communications, 9, 1765.