地獄谷のニホンザル、温泉に入ってストレスを緩和 -温泉入浴がストレスホルモンの濃度を下げることを解明-

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Rafaela Takeshita 霊長類研究所研究員、Michael A. Huffman 同准教授、木下こづえ 野生動物研究センター助教らの研究グループは、長野県・地獄谷野猿公苑での調査により、ニホンザルの冬期の温泉入浴がグルココルチコイド(ストレスホルモン)の上昇を抑制し、ストレス緩和に効果的であることを確認しました。ニホンザルが冬期のストレスに順応し、この時期に繁殖して生存率を高めることのできる秘訣の一端を解明した成果といえます。

本研究成果は、2018年4月3日に国際学術誌「Primates」に掲載されました。

研究者からのコメント

左から、Takeshita研究員、Huffman准教授、木下助教

このデータが、地獄谷のニホンザルが温泉に入る行動の持つ機能(体を温かく保つこと)を明らかにするために役立つことを期待しています。サルが温泉を楽しむ写真は魅力的ですが、野猿公苑を訪れる人々は、この行動がサルにとって利益となるのは、温かいシーズンではなく、冬のみであることを理解する必要があります。今後さらに唾液を使った解析により、温泉に出たり入ったりする際の急激な温度変化がホルモンの変化にどのような作用をもっているかを明らかにし、ヒトとサルの体温調整のメカニズムの比較にもつなげたいと考えています。(Takeshita研究員)

長年、野生動物のセルフメディケーション(薬草利用)と健康管理を研究してきた立場から、今回の成果は、ストレス解消による新たな健康管理行動の可能性を示唆するものと考えています。今後、他の野生動物を対象に、この様な非侵襲的手法を用いた研究を行うことによって、動物がどの様に自分の健康を保つのか、我々の理解がさらに深まることを期待しています。(Huffman准教授)

概要

温泉に入るニホンザルは、海外でもスノーモンキーの名前でよく知られています。長野県の地獄谷野猿公苑は、そのユニークな行動がみられる唯一の場所として、国内外から多くの観光客をひきつけています。この地域のニホンザルが冬により頻繁に温泉に入ることから、体を温めることがその目的であると推測されてはきたものの、それを裏付ける生理学的なデータは得られていませんでした。

本研究グループは、12頭の大人の雌ニホンザルを対象として、4月から6月の春の出産シーズン、および10月から12月の交尾シーズンに、温泉入浴について検証を行いました。それぞれのサルが温泉に浸かっている時間を調べ、どのサルがより長く温泉に浸かるかを確認しました。それと同時に糞を採取し、糞に含まれるグルココルチコイドの代謝産物の濃度を調べました。これは、体温調節によるストレスが、グルココルチコイドの濃度に影響を及ぼすことが知られているためです。

その結果、雌のニホンザルは、春よりも冬、特に寒さの厳しい時期に、より頻繁に温泉に入っていることが確認されました。さらに、入浴行動とグルココルチコイド濃度との関連性を比較したところ、入浴が観察されなかった週よりも観察された週の濃度が低いことが分かりました。この濃度の違いは、冬期のみに有意な差がみられ、春期は入浴の有無によるグルココルチコイド濃度の違いはみられませんでした。このことから、冬期においては、温泉入浴行動によってグルココルチコイド濃度が下がり、エネルギー消費とそれによる体温低下を緩和する働きがあることが示唆されました。

図:温泉に入るニホンザル。地獄谷野猿公苑にて。(写真提供:森研人 第11回モンキーセンターアニマルフォトコンテスト(2015年)入選作品)

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1007/s10329-018-0655-x

Rafaela S. C. Takeshita, Fred B. Bercovitch, Kodzue Kinoshita, Michael A. Huffman (2018). Beneficial effect of hot spring bathing on stress levels in Japanese macaques. Primates, 59(3), 215-225.

  • 朝日新聞(4月4日 1面)、京都新聞(4月4日 24面)、産経新聞(4月4日 26面)、日本経済新聞(4月4日 38面)、毎日新聞(4月4日夕刊 8面)および読売新聞(4月4日 31面)に掲載されました。