低価格のiPS/ES細胞の培養方法の開発に成功 -化合物を用いた合成培地-

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公開日

長谷川光一 高等研究院物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)特定拠点講師、吉田則子 同研究員らの研究グループは、多能性幹細胞(iPS細胞やES細胞)を培養するための新たな合成培地(培養液)およびその培地を用いた培養方法の開発に成功しました。この合成培地は、人工的に合成した化合物を用いているため、材料費をこれまでの1/5から1/10に抑えることが可能となります。

本研究成果は、2018年3月6日午前1時に英国の科学誌「Nature Biomedical Engineering」で公開されました。

研究者からのコメント

左から、長谷川特定拠点講師、吉田研究員

安価な合成培地ならびにその培地を用いた培養方法の開発に成功しました。実用化に向けてはまだ、医療応用に向けての安全性や、市販化に向けた耐久性などの確認が必要ですが、この培養法によってiPS細胞やES細胞を利用した研究や創薬、医療応用のコストが削減され、これらが加速されることを期待しています。

概要

これまで、多能性幹細胞の培養には「成長因子」とよばれるタンパク質が必須とされてきました。この成長因子は、培養細胞や大腸菌に作らせ精製した物で、培地の製造コストの大部分を占めていました。本研究グループは、化合物を用いることで、成長因子を必要としない合成培地を開発し、この培地を用いた培養法の開発に成功しました。

多能性幹細胞の作製や利用には、大量の培地が必要です。これまで、多能性幹細胞の培地が高価なことが、iPS細胞を利用した再生医療や創薬、研究のコストを上げる一因でした。本研究で開発した合成培地は、材料費が1/5から1/10になっても、これまでの他の培地と同様に多能性幹細胞を増やしたり、iPS細胞を作製したりすることができます。このため、この合成培地を用いることで、iPS細胞を利用した再生医療や創薬のコストを大きく下げることが可能になると期待できます。

図:今回新たに開発された培地で培養されたヒトES細胞のコロニー(集合体)

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41551-018-0200-7

Shin-ya Yasuda, Tatsuhiko Ikeda, Hosein Shahsavarani, Noriko Yoshida, Bhavana Nayer, Motoki Hino, Neha Vartak-Sharma, Hirofumi Suemori & Kouichi Hasegawa (2018). Chemically defined and growth-factor-free culture system for the expansion and derivation of human pluripotent stem cells. Nature Biomedical Engineering, 2(3), 173-182.

  • 京都新聞(3月6日 25面)、産経新聞(3月6日 30面)、日刊工業新聞(3月6日 24面)、日本経済新聞(3月6日 42面)、毎日新聞(3月6日 28面)および読売新聞(3月6日夕刊 8面)に掲載されました。