インフルエンザウイルスの遺伝の仕組みを解明

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野田岳志 ウイルス・再生医科学研究所教授、河岡義裕 東京大学教授らの研究グループは、インフルエンザウイルスが子孫ウイルスに遺伝情報を伝える仕組みを明らかにしました。本研究成果は、ウイルスRNAの集合を標的とした新規抗インフルエンザ薬の開発に繋がることが期待されます。

本研究成果は、2018年1月4日午後7時に英国の科学雑誌「Nature Communications」で公開されました。

研究者からのコメント

本研究成果は、インフルエンザウイルスの遺伝に関する巧妙な仕組みを明らかにしたという点で重要であり、インフルエンザウイルスの増殖機構の理解に大きな知見を与えました。今後、ウイルスRNAが“1+7” に束ねられるメカニズムがより詳細に明らかにされたら、インフルエンザウイルスのRNAの集合を標的とした(すなわちインフルエンザウイルスの8本のRNAの集合を阻害するような)新しい作用機序の抗インフルエンザ薬の開発へと繋がることが期待されます。

本研究成果のポイント

  • インフルエンザウイルスが子孫ウイルスにゲノム(遺伝情報)を伝える仕組みを解明した。
  • 子孫ウイルスにゲノムを伝えるとき、8本のウイルスRNAを“1+7” という特徴的な配置(中心の1本のRNAを7本のRNAが取り囲む配置)に集合させる過程が重要であることがわかった。さらに、ウイルスRNAが足りないときには、”1+7” 配置にまとめるために感染細胞のRNAを奪う仕組みがあることがわかった。
  • インフルエンザウイルスの遺伝に関する巧妙な仕組みを解明した点が重要であり、今後はウイルスRNAの集合を阻害する新規抗インフルエンザ薬の開発に繋がることが期待される。

概要

あらゆる生物において、子は親からゲノムを受け継ぎます。ウイルスも同じく、子孫ウイルスは親ウイルスからゲノムを受け継ぎます。インフルエンザウイルスは8本のRNAをゲノムとして持っていますが、8本に分かれたRNAがどのように子孫ウイルス粒子に伝えられるか、その仕組みの詳細は明らかにされていませんでした。

本研究グループは以前、子孫インフルエンザウイルス粒子の中のRNAの解析を行い、子孫ウイルスが“1+7” という特徴的な配置(中心の1本のRNAを7本のRNAが取り囲む配置)をとった8本のRNAを取り込むことを明らかにしました。今回はさらに、ウイルスRNAを1本欠き7本しかRNAを持たない変異子孫ウイルスにも、“1+7” 配置にまとめられた8本のRNAが取り込まれることを明らかにしました。8本目のRNAとして取り込まれたのはインフルエンザウイルスのRNAではなく、感染細胞のリボソームRNA(細胞のタンパク質合成を担うリボソームを構成するRNA)でした。

今回の発見から、インフルエンザウイルスが子孫ウイルスにゲノムを伝えるとき、8本のRNAを“1+7” に集合させる過程が重要であることがわかりました。さらに、ウイルスのRNAが足りないときには、“1+7” 配置にまとめるために感染細胞のRNAを奪う仕組みを持つことが明らかになりました。

図:本研究で解明されたインフルエンザウイルスの遺伝の仕組み

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41467-017-02517-w

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/228831

Takeshi Noda, Shin Murakami, Sumiho Nakatsu, Hirotaka Imai, Yukiko Muramoto, Keiko Shindo, Hiroshi Sagara & Yoshihiro Kawaoka (2018). Importance of the 1+7 configuration of ribonucleoprotein complexes for influenza A virus genome packaging. Nature Communications, 9, 54.

  • 日本経済新聞(1月8日 9面)に掲載されました。