子どもの自制心、遺伝的影響が見え始めるのは5歳頃から -子どもの資質を考慮した発達支援を目指して-

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森口佑介 教育学研究科准教授、篠原郁子 国立教育政策研究所主任研究官の研究グループは、3歳から6歳までの子ども81人を調査し、行動や思考を制御する能力(実行機能)とその能力に深く関わる外側前頭前野の活動に、COMT(カテコール-O-メチルトランスフェラーゼ)遺伝子が影響を与えることを突き止めました。また、そのタイミングが5~6歳以降であることを明らかにしました。

本研究成果は、2018年1月5日に「Developmental Science」誌に掲載されました。

研究者からのコメント

幼児期の実行機能や自制心は、後の学力、学校適応、健康状態、経済状態に影響を与えるため、この能力の発達過程を理解すること極めて重要です。今回は遺伝的な要因が実行機能に与える影響を示しましたが、今後は遺伝的な要因と子育てや家庭環境などの環境的な要因の両方が与える影響を検討し、発達支援につなげていきたいと考えています。

概要

実行機能は、自分の欲求を我慢したり、頭を切り替えたりするなど、人間の自制心の基盤となる能力です。近年、幼児期の実行機能や自制心の個人差が、児童期の学力や友人関係、成人期の経済状態や健康状態を予測することが示されています。しかし、その個人差がいかに生じるかは未だ明らかではありません。そこで本研究グループは遺伝子の多様性に注目しました。

遺伝子の個人差を多型と呼びます。これまでの大人を対象にした研究で、COMT遺伝子にはVal/Val型やMet型というタイプがあることが分かっています。タイプによって外側前頭前野の働きに違いが生じ、実行機能にも差が出てきます。今回の研究ではまず3歳から6歳までの子どもの遺伝子多型を解析し、どのタイプにあてはまるか調べました。加えて実行機能の一つである認知的柔軟性の課題を与え、課題中の外側前頭前野の活動を近赤外分光法(近赤外光により、脳活動の変化を血中の酸化・脱酸化ヘモグロビンの変化量として計測する手法)によって計測しました。

その結果、3~4歳児では遺伝子多型の影響はなかったのに対し、5~6歳ではVal/Val型を持つ子どもがMet型を持つ子どもよりも認知的柔軟性のスコアが高く出ました。また、Val/Val型を持つ子どものほうが強く外側前頭前野を活動させていました。このことは遺伝子の働きが、幼児期後期になると実行機能に影響すること、その神経基盤は外側前頭前野であることを示しています。将来的には実行機能がどのように発達するのか、メカニズムの理解に加え遺伝的資質を考慮した発達支援につながりうる成果です。

図:(左)認知的柔軟性課題、(中)遺伝子の働きが子どもの認知的柔軟性に与える影響。Val型の5~6歳児はMet型に比べて成績が良い。(右)遺伝子の違いによって外側前頭前野の活動が異なる。Val型の活動が強いことがわかる。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1111/desc.12649

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/228368

Yusuke Moriguchi, Ikuko Shinohara (2018). Effect of the COMT Val158Met genotype on lateral prefrontal activations in young children. Developmental Science, 21(5), e12649.