電子が凍るモット絶縁体を「溶かす」新しい方法を発見 -定常電流で現れる巨大反磁性-

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米澤進吾 理学研究科助教、前野悦輝 同教授、チャンチャル・ソウ 日本学術振興会外国人特別研究員、北村想太 ドイツ・マックスプランク研究所博士研究員、岡隆史 同グループリーダー、黒木和彦 大阪大学教授、中村文彦 久留米工業大学教授らの研究グループは、ルテニウム酸化物のモット絶縁体に元素置換や高圧より簡便な方法として電流を流すことで、磁場をはねのける巨大反磁性が現れることを発見しました。

本研究成果は、2017年11月24日(米国東部時間)に米国の科学誌「Science」に掲載されました。

研究者からのコメント

左から、前野教授、米澤助教、ソウ外国人特別研究員、岡グループリーダー、黒木教授

電流を流すだけでモット絶縁体の「凍った」電子を「溶かす」ことができ、元素置換や高圧では得られない新たな性質を創り出せたことは、物性物理学の基礎研究にとってだけでなく、将来の電気・磁気信号のスイッチング・デバイス等への応用の観点からも極めて大きな意義があります。

今後の研究展開に関しては、まず、この新たな方法によって、今回発見のルテニウム酸化物以外のモット絶縁体からも、さらなる面白い性質を引き出せる可能性があります。また、電流が流れた「非平衡状態」という通常の熱平衡とは異なる状態を利用することで生まれた新現象は、新たな学術分野の開拓にもつながると期待できます。

概要

現代社会を支える電子技術は、半導体や金属(導電体)中の伝導電子をコントロールすることが基本となっています。これらに対し、伝導電子が凍った状態に例えられるモット絶縁体は、将来的な電子技術の材料の一つとして期待されています。互いに身動きが取れず凍った電子を、その絶縁体の一部の元素の入れ替えや高圧環境に置くことで「溶かす」と、電子同士の結びつきの強い「強相関金属」となり、高温超伝導や超巨大磁気抵抗といった新しい性質が生まれます。

本研究グループは、典型的なモット絶縁体であるルテニウム酸化物Ca 2 RuO 4 の単結晶に電流を流し、電気抵抗と磁性を測定しました。その結果、電流の増加に伴いモット絶縁体の凍った電子がまさに溶け始める状態を作ることができるだけでなく、非常に大きな反磁性という性質が現れることがわかりました。反磁性とは、外からかけた磁場をはねのける性質のことで、超伝導体や、グラファイト、ビスマスなどで大きな反磁性が知られています。今回の最も大きな発見は、電流を流すだけでモット絶縁体の電気的・磁気的性質を大きく変化させることができた点です。また、超伝導体以外ではこれまでで最大の反磁性を創り出すことにも成功しました。

図:ルテニウム酸化物が電流の下で示す反磁性。超伝導体以外ではこれまで最大の反磁性で、強い磁場のもとでは高温超伝導体にもせまる大きさになる。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1126/science.aah4297

Chanchal Sow, Shingo Yonezawa, Sota Kitamura, Takashi Oka, Kazuhiko Kuroki, Fumihiko Nakamura & Yoshiteru Maeno (2017). Current-induced strong diamagnetism in the Mott insulator Ca2RuO4. Science, 358(6366), 1084-1087.

  • 日刊工業新聞(11月24日 26面)および日経産業新聞(1月4日)に掲載されました。