アルコールの脱水素的酸化を効率的に進行させる新規触媒を開発

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藤田健一 人間・環境学研究科教授らの研究グループは、水溶媒中でアルコールの脱水素的酸化を効率的に進行させる新しいイリジウム触媒を開発しました。この新しいイリジウム触媒は極めて水に溶けやすく、空気中や水中でも長期にわたって安定な触媒であり、扱いやすくて高性能という利点があります。

本研究成果は、2017年9月25日に「ACS Catalysis」に掲載されました。

研究者からのコメント

本研究では、環境調和性に優れた水を溶媒として用い、有害な酸化剤を必要とせずに、水素ガスの副生を伴うだけという、非常に理想的な条件下でのアルコールの脱水素的酸化反応を達成することができました。この成果は、環境に調和した有機合成触媒系を設計する上で、重要な知見を与えるとともに、多段階有機合成を計画する際の一つのキーステップとして、大きな利用価値があると考えられます。

概要

近年、環境負荷が小さく効率の良い、触媒を活用した有機分子変換法の開拓が求められています。なかでも、触媒を用いた有機分子の脱水素化を基軸とした反応に注目が集まっています。たとえば、アルコールを酸化させアルデヒド、ケトン等へ変換する反応は有機化学における最も基本的かつ重要な反応ですが、これまでは毒性の高い酸化剤を大量に用いて行われてきました。これに対し、酸化剤を用いることなく脱水素化を伴って同様の変換を達成する触媒的な反応が最近注目されています。特に触媒を用いてアルコールから水素を取り出す反応は、クリーンエネルギーとして期待の大きい水素の製造という観点からも、その発展が期待されています。

本研究グループではこれまでにも、水溶媒中でアルコールの脱水素的酸化反応を実現するイリジウム触媒を開発してきました。しかしその触媒活性は十分に高いとはいえず、より高活性な触媒の開発が望まれていました。今回の研究では、触媒分子の設計を見直し、新しい機能性配位子を合成してイリジウムに結合させた新規触媒を合成し、その性能を調査しました。

その結果、このイリジウム触媒を水溶媒中で使用することにより、第二級アルコールを原料とする場合にはケトンを、第一級アルコールを原料とする場合にはカルボン酸を合成できることが分かりました。副生成物は水素ガスだけです。さらに、簡単な処理で触媒を回収、再利用することも可能なため、大変環境負荷の小さい有機分子変換法だと言えます。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1021/acscatal.7b02560

Ken-ichi Fujita, Ryuichi Tamura, Yuhi Tanaka, Masato Yoshida, Mitsuki Onoda and Ryohei Yamaguchi (2017). Dehydrogenative Oxidation of Alcohols in Aqueous Media Catalyzed by a Water-Soluble Dicationic Iridium Complex Bearing a Functional N-Heterocyclic Carbene Ligand without Using Base. ACS Catalysis, 7(10), 7226-7230.

  • 化学工業日報(10月4日)に掲載されました。