妊娠期に腹部の皮膚が広がる仕組みの一端をマウスで解明

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豊島文子 ウイルス・再生医科学研究所教授、一條遼 同研究員らの研究グループは、妊娠したマウスを用いて腹側皮膚を構成する細胞の動きを観察しました。その結果、妊娠が進むとともに、皮膚の最外層にあたる表皮の奥に、表皮幹細胞を起源とする高い増殖能を持つ細胞集団が出現することを発見しました。

本研究成果は、2017年9月11日午後6時に英国の科学誌「Nature Communications」に掲載されました。

研究者からのコメント

本研究により、表皮幹細胞から産生される、増殖性の高い新規の細胞集団の存在が明らかとなりました。この細胞集団は、妊娠期の皮膚拡張や創傷治癒に必須であったことから、皮膚の拡張時に重要な役割を果たすと考えられます。増殖性の細胞集団の産生は、真皮の分泌因子によって誘導できたことから、再生医療への応用展開につながると期待しています。

概要

皮膚は、体形の変化に応じて柔軟に拡張・収縮する機能を持ちます。特に妊娠期には、胎児の成長に伴って、母体腹側の皮膚が急速に拡張していきます。しかし、その背景となる細胞動態や仕組みは不明でした。

本研究グループは、マウスを用いて、急速に拡張する妊娠期の腹部の皮膚に着目し、その拡張メカニズムを解析しました。その結果、妊娠期には腹部表皮の奥に高い増殖能を持つ細胞集団が出現することを見出しました。この細胞集団の出現には転写因子Tbx3が必要であり、Tbx3を腹側皮膚で働かないようにしたマウスでは妊娠しても皮膚が拡張しにくくなることが分かりました。また、これらの表皮細胞の動きは、真皮に存在する細胞が分泌するタンパク質によって引き起こされることも分かりました。この増殖性の細胞集団は、皮膚の創傷時にも出現して傷の治りを促す働きがあります。真皮からの分泌タンパク質をマウスの皮膚内に注射してみたところ、傷の治りが早くなることも分かりました。

今回発見した増殖性の高い表皮細胞集団や表皮と真皮の相互作用に着目することで、皮膚の拡張を促す、新たな再生医療の技術を開発できる可能性があります。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41467-017-00433-7

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/227149

Ryo Ichijo, Hiroki Kobayashi, Saori Yoneda, Yui Iizuka, Hirokazu Kubo, Shigeru Matsumura, Satsuki Kitano, Hitoshi Miyachi, Tetsuya Honda & Fumiko Toyoshima (2017). Tbx3-dependent amplifying stem cell progeny drives interfollicular epidermal expansion during pregnancy and regeneration. Nature Communications, 8, 508.

  • 朝日新聞(9月15日夕刊 6面)および産経新聞(9月12日 26面)に掲載されました。