iPS細胞の作製には、ハイブリッドな細胞代謝が重要である

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曽根正光 iPS細胞研究所(CiRA=サイラ)研究員、山本拓也 同講師らの研究グループは、マウスの繊維芽細胞に初期化(分化した体細胞の核がリセットされ、発生初期の細胞核の状態に戻り、多能性幹細胞などに変化すること)因子 Oct4 Sox2 Klf4 と共に遺伝子 Zic3 Esrrb を導入すると、Zic3とEsrrbが細胞代謝(細胞が活動するうえで、外から取り入れた無機物や有機化合物をもとに新しい分子を合成したり、エネルギーに変換したりすること)を制御し、相乗的に初期化の効率を上げることを発見しました。

本研究成果は、2017年5月3日午前1時に米国の学術雑誌「Cell Metabolism」に掲載されました。

研究者からのコメント

左から、山本講師、曽根研究員

体細胞の初期化過程では、多くの現象が複雑に絡み合い、細胞内の状態がダイナミックに変化することにより、多能性を獲得します。本研究により、転写ネットワークと細胞代謝ネットワークが連携して細胞の初期化を進行させていることが明らかとなりました。今後も、未だ不明な点が多い体細胞初期化の分子メカニズムの解明を目標として、研究を行っていきたいと思います。

概要

これまで、初期化因子を導入すると、体細胞からiPS細胞へ初期化することは確認されていましたが、初期化の効率は非常に悪く、多くの細胞はiPS細胞にならずに残っていました。本研究グループは、iPS細胞へと細胞が変化するときに、初期化因子の働きが互いに拮抗し合う可能性があると考えました。そして、その拮抗は酸化的リン酸化(ミトコンドリアの中で起こる、酸素を使ってエネルギーに変換させる代謝過程)から解糖系(糖をピルビン酸という分子に分解し、細胞内で用いられるエネルギーに変換させる代謝過程)へと細胞代謝が変わる過程で起きていると考えました。(iPS細胞のような分裂が活発な細胞は、解糖系の代謝が主になることが分かっています。)よって、酸化的リン酸化と解糖系の細胞代謝のバランスが初期化の鍵であると考えられましたが、そのバランスを調整するものが何かは解明されていませんでした。

そこで本研究グループは、細胞が初期化されるときに重要である遺伝子の候補を十数個に絞り、初期化因子 Oct4 Sox2 Klf4 (以下OSK)と共に、初期化が起こると発光するマウスの繊維芽細胞に導入しました。

すると、全ての候補遺伝子単体ではあまり初期化に影響がありませんでしたが、 Zic3 Esrrb の組み合わせのときだけ発光する細胞が劇的に増えることが分かりました。これにより、OSKと共に、 Zic3 Esrrb を組み合わせることで初期化が促進されることが分かり、二つの因子がお互いをパートナーとして初期化で重要な働きをしている可能性があることが分かりました。

Zic3とEsrrbという二つの因子は、共同で解糖系を促します。一方、Zic3は酸化的リン酸化を抑制し、逆にEsrrbは酸化的リン酸化を活性化します。また、Esrrbによる酸化的リン酸化の活性化は初期化に重要であることが分かりました。本研究では、Zic3とEsrrbの組み合わせが適切な細胞代謝のバランスを調整する鍵となり、iPS細胞を効率的に作製する上で重要であることを突き止めました。

論文概要図

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1016/j.cmet.2017.04.017

Masamitsu Sone, Nobuhiro Morone, Tomonori Nakamura, Akito Tanaka, Keisuke Okita, Knut Woltjen, Masato Nakagawa, John E. Heuser, Yasuhiro Yamada, Shinya Yamanaka, Takuya Yamamoto (2017). Hybrid Cellular Metabolism Coordinated by Zic3 and Esrrb Synergistically Enhances Induction of Naive Pluripotency. Cell Metabolism, 25(5), 1103-1117.

  • 京都新聞(5月3日 23面)、産経新聞(5月3日 20面)、中日新聞(5月3日 24面)、日刊工業新聞(5月3日 17面)、日本経済新聞(5月3日 34面)および毎日新聞(5月3日 29面)に掲載されました。