心に刻み込まれた正義 -乳児は弱者を助ける正義の味方を肯定する-

ターゲット
公開日

明和政子 教育学研究科教授、鹿子木康弘 同特定助教、David Butler 同特別研究員らの研究チームは、前言語期のヒト乳児を対象に、六つの実験から、弱者を助ける正義の行為を肯定する傾向が発達の早期にすでに認められることを明らかにしました。

本研究成果は、2017年1月31日午前1時に英国の学術誌「Nature Human Behaviour」に掲載されました。

研究者からのコメント

左から、明和教授、鹿子木特定助教、Butler特別研究員

私たちヒトは、「正義」を肯定する心の特性(心的バイアス)を生来的に持っている可能性がみえてきました。こうした本性はヒトに特有のものであるのか、それはどのように育まれていくのか、その後発達する高次の「正義感」の個人差とどう結びついていくのか。こうした問題を科学的に明らかにしたうえで、子どもたちの社会性発達の支援に生かしていきたいと考えています。

概要

ヒト社会では、攻撃されている他者のために身を投げ出して助けるような行為は「美徳」として受けとめられ、道徳、正義、ヒロイズムといった概念と結びつけてイメージされます。これまでの研究では、正義の行為が見られるのは就学前頃であることが示されてきました。しかし、こうした正義の概念は、生後の学習によって獲得されるのか、あるいは生後早期からすでに見られる傾向であるかについては未解明のままでした。

そこで本研究グループは、正義の概念の原型は発達の早期にすでに認められると仮定し、乳児を対象に六つの実験を行いました。

その結果、ヒトは生後早期から、攻撃者、犠牲者、正義の味方の関係性を理解し、正義の味方のような行為を肯定する傾向を持つことが分かりました。正義の行為を理解し肯定する傾向は、学習の結果というよりも、ヒトに生来的に備わっている性質である可能性が高いと言えます。

図:実験の流れ

赤ちゃんに攻撃者、犠牲者、その相互作用を止める・止めない第3者を見せ、その後に第3者の実物を提示し、赤ちゃんに選択させる。 攻撃相互作用を止めるアニメーションのほかに、無生物の衝突や中立な相互作用を止めるアニメーションもある。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 http://doi.org/10.1038/s41562-016-0037

Yasuhiro Kanakogi, Yasuyuki Inoue, Goh Matsuda, David Butler, Kazuo Hiraki, Masako Myowa-Yamakoshi. (2017). Preverbal infants affirm third-party interventions that protect victims from aggressors. Nature Human Behaviour 1: 0037, Published online: 30 January 2017.

  • 朝日新聞(1月31日 32面)、京都新聞(1月31日 30面)、産経新聞(1月31日夕刊 10面)、毎日新聞(1月31日夕刊 8面)および読売新聞(1月31日 35面)に掲載されました。