柿の「揺らぐ性別」の仕組みを解明 -エピジェネティックな記憶がつくる植物の柔軟性-

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赤木剛士 農学研究科助教、河井崇 同助教、田尾龍太郎 同教授らの研究グループは、カリフォルニア大学デービス校と共同で、柿における揺らぎのある性決定の分子機構およびその進化過程を解明しました。

本研究成果は、2016年12月12日付け(米国時間)の科学雑誌「The Plant Cell」および2016年11月14日付けの「Scientia Horticulturae」で発表されました。

研究者からのコメント

左から、田尾教授、赤木助教、河井助教

日本人にはお馴染みの「柿」ですが、私たちの研究によって、植物では初めて「性別決定遺伝子」が発見された植物です。今回は、その研究を少し掘り下げ、私たちが普段口にしている「栽培されている柿」において、花ごとの性決定がどのような仕組みで行われているのかを研究しました。その結果、DNAへの記憶とも言われる「エピジェネティック制御」が性別決定遺伝子に作用し、個体の中での花単位の性決定の揺らぎを統制していることが明らかになりました。

柿は木本性作物であり、「桃栗三年柿八年」の諺にもあるように、開花までには長い時間を要しますので、多くの遺伝学的解析は困難を極めます。私たちの所属する果樹園芸学研究室では、創設以来、長きにわたって多くの栽培柿品種資源を収集しており、今回の発見は、その間に蓄積された品種間の多様性に関する調査結果や何十年にもわたる経験的知見に基づいて得られた結果になります。

概要

「性」の決定は生物がその進化の中で獲得した多様性を維持するための最重要機構の一つです。植物は「花」という単位で独立した性を持つことが出来るため、単一の種あるいは個体中においても、多様な性表現型を示しますが、その進化過程や制御機構については研究が進んでいませんでした。

本研究グループは、「柿」における遺伝子の動態を調査し、一つの個体の中で雄花と雌花を咲き分ける仕組みが、DNA配列に依存しない「エピジェネティック」と呼ばれるDNAに書き込まれた記憶によって制御されていることを解明しました。野生近縁種から柿への進化過程において、本来は画一的に個体の性を制御するY染色体上の性決定遺伝子 OGI の不安定化と、その制御を受ける MeGI と呼ばれる雌化遺伝子におけるエピジェネティックスイッチが成立しており、それによって柿が新しい性表現を獲得したと考えられました。

図:二倍体野生種(A)から六倍体栽培ガキ(B)の進化過程における「揺らぎのある性決定」の成立

二倍体種ではY染色体を持つ個体は必ず雄花のみを着生する雄株となるが、栽培ガキではY染色体を持っていても OGI が不安定化しており、 MeGI のDNAメチル状態の影響が卓越的になり、雄花・雌花への運命が決定する。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 http://doi.org/10.1105/tpc.16.00532

Takashi Akagi, Isabelle M. Henry, Takashi Kawai, Luca Comai and Ryutaro Tao. (2016). Epigenetic Regulation of the Sex Determination Gene MeGI in Polyploid Persimmon. The Plant Cell, 28(12) pp. 2905-2915.

【DOI】 http://doi.org/10.1016/j.scienta.2016.10.046

Takashi Akagi, Takashi Kawai, Ryutaro Tao. (2016). A male determinant gene in diploid dioecious Diospyros, OGI, isrequired for male flower production in monoecious individuals of Oriental persimmon (D. kaki). Scientia Horticulturae, 213(14), pp. 243–251.