重金属を固体中で選択的に吸収する材料の発見 -電子機器からの新たな金属回収法などの開発に期待-

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越湖将貴 工学研究科修士課程学生、矢島健 同研究員(現東京大学助教)、Yaoqing Zhang 同研究員、陰山洋 同教授、内本喜晴 人間・環境学研究科教授、小口多美夫 大阪大学教授らの研究グループは、チタンの層状化合物が、カドミウムなどの重金属を選択的かつ低温で吸収できることを発見しました。溶液を利用しない新しいタイプの金属回収の可能性を示しただけでなく、固体燃料電池など、固体中での金属の拡散に関わる現象の理解に新しい視座を与える成果です。

本研究成果は、2016年12月14日午後7時に英国の学術誌「Nature Communications」に掲載されました。

研究者からのコメント

陰山教授

本研究は、新しいタイプの金属回収の方法論を提示したことになります。複数の金属からなる身の回りの材料から、必要な(あるいは不必要な)金属を取り出す技術は今後ますます重要になってくるものと思われます。本研究で得られた知見を使って、その他の有毒金属や希少金属を選択的に吸収で きる材料の開発研究が進むことが期待されます。今回の発見は、超伝導の探索に失敗し続けた末に生まれました。関わった学生さんの粘り強さとともに、一見、失敗と思える結果にこそ大きなチャンスが隠れているという「研究の醍醐味」を味わうことができました。

概要

電子機器などの廃棄物からの金属回収は、エネルギー資源の確保と環境汚染の防止の観点から極めて重要です。金属が物質中に取り込まれる反応(インターカレーション反応)は、グラファイトや粘土などさまざまな層状化合物において観測されていますが、これまでは特定の金属を選択的に吸収させることは困難でした。

そこで本研究グループは、Ti 2 PTe 2 (Ti:チタン、P:リン、Te:テルル)という組成をもつ層状化合物に着目しました。研究の開始当初は、金属を挿入することでこの物質を超伝導にすることを目指していましたが、その過程で周期表の元素を徹底的に探索した結果、カドミウム(Cd)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)のみを選択的に吸収する特性があることが分かりました。

また、従来の物質と異なり、固体中でわずかに温度を上げるだけでインターカレーション反応が進行することもわかりました。本物質のように低温で重金属が拡散する例はほとんどなく、固体燃料電池の低温動作化や効率化などにも新しい展開をもたらすことが期待されます。

図:80度という低温で固体のままカドミウムを吸収する層状物質Ti 2 PTe 2

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 http://dx.doi.org/10.1038/ncomms13809

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/217657

Takeshi Yajima, Masaki Koshiko, Yaoqing Zhang, Tamio Oguchi, Wen Yu, Daichi Kato, Yoji Kobayashi, Yuki Orikasa, Takafumi Yamamoto, Yoshiharu Uchimoto, Mark A. Green & Hiroshi Kageyama. (2016). Selective and low temperature transition metal intercalation in layered tellurides. Nature Communications, 7:13809.

  • 京都新聞(12月15日 21面)、日刊鉄鋼新聞(12月19日)に掲載および毎日放送(12月15日 7時40分放送分)で放送されました。