岡本亮 工学研究科准教授、竹内繁樹 同教授らは、光子を用いた量子回路により、量子重ね合わせ状態(量子力学の基本的な性質の一つ。時間、位置、運動量等の物理量が複数の異なる値を同時に取ることができる)をとりうる「シャッター」を実現することに成功しました。そして、光子を2重スリットに入射する実験において、特定の条件下では、重ね合わせ状態にある一つの量子シャッターで、二つのスリットを同時に遮断できることをはじめて実験的に示しました。これは、量子力学のもつ不思議な性質を、より本質的に浮かび上がらせるとともに、将来の量子コンピュータの実現にも寄与する成果です。
本研究成果は、2016年10月14日午後6時に英国の学術誌「Scientific Reports」に掲載されました。
研究者からのコメント
今回の成果は、量子物理学のより深い理解に役立つだけでなく、重ね合わせ状態で、重ね合わせ状態を制御することが可能なことを示すもので、将来の量子コンピュータの実現につながります。今後は、光量子回路による具体的な応用方法を示し、実現していく予定です。
概要
量子力学では、一つの粒子が複数の場所に同時に存在する量子重ね合わせ状態をとることができます。光の波の性質を確認した「ヤングの2重スリット実験」(二つのスリットを通した光がスクリーンに干渉縞を形成することを見る実験)を、光子を1個ずつ用いて行った場合も、実験を繰り返すと光子の検出位置の分布は干渉縞を形成します。これは1個の光子が重ね合わせ状態になり、同時に二つのスリットを通ったからだと考えられます。また、通常のシャッター1個で一方のスリットを遮断すると、この干渉が失われることもよく知られています。
2003年に米国とイスラエルの物理学者らは、たった一つの「量子シャッター」(二つのスリットの位置に同時に存在する、すなわち重ね合わせ状態をとりうるシャッター)を用いて、複数のスリットを同時に遮断することができることを理論的に予言しました。しかし、必要な性質を満たす「量子シャッター」の実現が困難だったため、実験的に実証されていませんでした。
そこで本研究グループは、光量子回路を用いて、スリットを透過した光子とシャッターによって弾き返された光子の数を測定し、どの程度光子を遮断できているかを見積もりました。
その結果、たった1個のシャッターで、古典的な限界を超えて二つのスリットを同時に遮断することが可能なことを確認しました。さらに、シャッターで弾き返された光子が干渉することを確認、その量子性を保っていることを実証しました。
図:実験内容イメージ図
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】
http://dx.doi.org/10.1038/srep35161
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/217023
Ryo Okamoto & Shigeki Takeuchi. (2016). Experimental demonstration of a quantum shutter closing two slits simultaneously. Scientific Reports, 6:35161.
- 京都新聞(10月15日 27面)および日本経済新聞(10月17日 15面)に掲載されました。