乳幼児期に特異的な手足の痛み発作を起こす病気を見つけ原因を解明 -この病気を小児四肢疼痛発作症と命名-

ターゲット
公開日

小泉昭夫 医学研究科教授、奥田裕子 同研究員(現福岡大学医学部助教)、小林果 同特定講師、原田浩二 同准教授 野口篤子 秋田大学医学系研究科助教らの研究グループは、寒さや疲労によって誘発される乳幼児の手足の痛み発作を発見し、「小児四肢疼痛発作症」と命名しました。また、この痛みの発作は SCN11A という遺伝子の一塩基変異によるものであることを明らかにしました。

本研究成果は、2016年5月26日に米国のopen access科学誌「PLOS ONE」誌へ掲載されました。

研究者からのコメント

左から野口助教、原田准教授、小泉教授、奥田研究員、小林特定講師

今後は医療機関への調査を大規模に拡大し、遺伝子検査による正確な診断の推進と国内実態調査を進めていく予定です。さらに、本研究は「寒さや悪天候により痛みが強くなる」「成長すると痛みが軽くなる(痛みが子供の時期に限られる)」という従来あまり注意を払われなかった訴えが疼痛疾患の症状であることを明確にしました。こうした環境要因や加齢が痛みに関与するメカニズムを解明することが、新しい視点での鎮痛薬開発に寄与することが多いに期待できます。

概要

昔から、乳幼児期に原因がわからずよく泣く子供は「疳(かん)」の強い子だと言われてきました。

本研究グループは2012年から調査を行い、「疳」の強い乳幼児の一部は、寒さや悪天候、疲労、体調不良などを契機として誘発される手足の痛み発作が原因でよく泣いたことを見出しました。

さらに、この痛み発作は、思春期以降に軽快し、親や兄弟も同じ様に手足の痛みを体験していたことが分かりました。調査に参加いただいた全国23名の子供たちと6家族の協力を得て、遺伝子の解析およびマウスモデルを用いた解析を行い、3番染色体にある SCN11A 遺伝子(Nav1.9)の一塩基変異が原因であることを見つけました。

また、本研究により、乳幼児期に始まる手足の痛み発作の原因が特定され、疾患として新たに確立することができ、この病気を「小児四肢疼痛発作症」(Infantile episodic limb pain)と命名しました。

本疾患は、現在まで日本各地(東北、関東、中国)の3県に23名が見出されており、成長に伴い痛みは軽快することから見過ごされてきたと考えられ、潜在患者の数は多いことが予想されます。本研究成果はこれまで見過ごされてきた小児四肢疼痛発作症の実態把握の糸口となることが大いに期待されます。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】
http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0154827

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/214280

Hiroko Okuda, Atsuko Noguchi, Hatasu Kobayashi, Daiki Kondo, Kouji H. Harada, Shohab Youssefian, Hirotomo Shioi, Risako Kabata, Yuki Domon, Kazufumi Kubota, Yutaka Kitano, Yasunori Takayama, Toshiaki Hitomi, Kousaku Ohno, Yoshiaki Saito, Takeshi Asano, Makoto Tominaga, Tsutomu Takahashi, Akio Koizumi. (2016). Infantile Pain Episodes Associated with Novel Nav1.9 Mutations in Familial Episodic Pain Syndrome in Japanese Families. PLOS ONE 11(5): e0154827.

  • 京都新聞(5月26日 24面)、産経新聞(5月26日 26面)、日本経済新聞(5月26日 38面)、読売新聞(5月26日 29面)に掲載されました。