思春期特発性側弯症(AIS)の原因遺伝子LBX1が側弯を引き起こす仕組みを解明 -AIS治療法の確立へ期待-

ターゲット
公開日

郭龍 再生医科学研究所研究員、開祐司 同教授、宿南知佐 広島大学医歯薬保健学研究院教授(広島大学ゲノム編集研究拠点メンバー、京都大学再生医科学研究所客員教授)、山下寛 同助教、 堀家慎一 金沢大学学際科学実験センター准教授、山本卓 広島大学理学研究科教授(広島大学ゲノム編集拠点リーダー)、池川志郎 理化学研究所チームリーダーらの研究グループは、思春期特発性側弯症(AIS)と強く相関するrs11190870のリスクアレルは、近傍にあるLBX1の発現を上昇させることを明らかにしました。また、ヒトLBX1とそのゼブラフィッシュ相同遺伝子(lbx1a、lbx1b、lbx2)の過剰発現が、ゼブラフィッシュの体軸変形を引き起こす原因になることを示しました。さらに、lbx1bをゼブラフィッシュの筋肉以外の内在性発現領域でモザイク状に発現させると、脊椎骨の奇形を伴う側弯と脊椎骨の形態異常を伴わないAISによく似た側弯が誘導されることが分かりました。

今回の結果は、思春期特発性側弯症の治療法の確立につながることが期待されます。

本研究成果は1月29日午前4時(日本時間)、米国の科学雑誌「PLOS Genetics」(オンライン版)に掲載されました。

研究者からのコメント

多くの遺伝子が関わる多遺伝子疾患は、単一遺伝子疾患と異なり、その病因解明は容易ではありません。今回の研究対象となった思春期特発性側弯症(AIS)は日本人の約2%にみられる疾患ですが、どのようにして発症するのか解明されていません。2011年に同定されたAISに強い疾患感受性を示すLBX1遺伝子についても、AISの発症にどのように関与しているのか不明でした。普通、ヒトの疾患に関わる遺伝子の機能解析には、ラットやマウスなどの哺乳類モデルがよく使われますが、この場合は何の変化も認められませんでした。ところが、ゼブラフィッシュではAISに似た椎骨の変形が出現しました。進化的により離れた魚類で変化が観察できたことに、我々自身も驚きました。しかし、四足歩行の哺乳動物が体軸を前後に動かすのに対して、体軸を左右に動かして泳ぐ魚の方が二足歩行のヒトに似た背骨の使い方をしていることを想起すると納得がいきます。あらためて、ヒトは哺乳動物だからという先入観にとらわれないチャレンジの効用を実感しました。

本研究成果のポイント

  • 思春期特発性側弯症(AIS)と強く相関する一塩基多型(SNP)rs11190870を含むゲノム領域は、LBX1遺伝子のプロモーターに働きかけて発現を上昇させることが明らかに
  • LBX1の過剰発現が思春期特発性側弯症の病態に関与していることが判明。今回の研究成果は、思春期特発性側弯症の治療法の確立へ向けた糸口になると期待

概要

脊柱側弯症は、脊骨が側方に曲がり捻れる病気です。発生頻度が高く、進行すると治療が大変なため法律で検診を行うことが定められています。脊柱側弯症のほとんどは、原因不明(特発性)の思春期特発性側弯症(AIS)と呼ばれるタイプです。10歳以降の成長期に発症するAISは、特に女性に多い疾患で、日本人の約2%に見られます。AISは、進行すると腰背部痛や呼吸機能障害を起こし、装具や手術療法が必要となるので、思春期の患者さんとその家族に非常に大きい肉体的、精神的、経済的な負担をかけています。

池川志郎 理化学研究所統合生命医科学研究センター骨関節疾患研究チームリーダーらは、2011年にゲノムワイド相関解析(GWAS: Genome Wide Association Study)によって、AISと強く相関する一塩基多型(SNP)rs11190870を発見しました(Nature Genetics 43, 1237-40, 2011/ doi:10.1038/ng.974)。rs11190870の近くには、LBX1という遺伝子が存在しますが、AIS発症との機能的な関連性は、まだ分かっていませんでした。AISの病態を理解するには、LBX1やrs11190870がどのようにAISの発症に関わっているかを個体レベルで解明することが望まれていました。

今回、本研究グループは、Chromosome conformation capture法やLuciferase法による解析によって、rs11190870を含むゲノム領域がヒトLBX1遺伝子のプロモーター領域と相互作用してLBX1遺伝子を過剰発現させることを明らかにし、これが思春期特発性側弯症の病態に関与していることを示しました(写真参照)。

内在性エンハンサーを用いてモザイク状にlbx1bを発現させると、椎骨奇形を伴う側弯や体軸が弯曲するAISに似た側弯(写真、右端2枚はX線マイクロCT画像)を示すことが観察された。

詳しい研究内容について

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1371/journal.pgen.1005802
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/203649

Long Guo, Hiroshi Yamashita, Ikuyo Kou, Aki Takimoto, Makiko Meguro-Horike, Shinichi Horike, Tetsushi Sakuma, Shigenori Miura, Taiji Adachi, Takashi Yamamoto, Shiro Ikegawa, Yuji Hiraki, Chisa Shukunami
"Functional Investigation of a Non-coding Variant Associated with Adolescent Idiopathic Scoliosis in Zebrafish: Elevated Expression of the Ladybird Homeobox Gene Causes Body Axis Deformation"
PLOS Genetics 12(1), e1005802 Published: January 28, 2016