電池内部のリチウム元素を非破壊で定量する新手法の開発に成功 -大型リチウムイオン二次電池における電極内局所反応領域のその場観察法として期待-

ターゲット
公開日

折笠有基 人間・環境学研究科助教、山本健太郎 同博士後期課程学生(現九州大学稲盛フロンティア研究センター特任助教)、内本喜晴 同教授、鈴木宏輔 群馬大学助教、櫻井浩 同教授、B. Barbielini ノースイースタン大学(米国)准教授、S. Kaprzyk 同教授、Yung Jui Wang 博士(同大学)、H. Hafiz氏(同大学)、A. Bansil 同教授、伊藤真義 高輝度光科学研究センター副主幹研究員、櫻井吉晴 同主席研究員は国際共同研究で、大型放射光施設SPring-8の高輝度・高エネルギーの放射光X線を用いてリチウム元素を非破壊(試料をそのまま)で定量する手法を開発しました。

本研究成果は、米国科学誌「Journal of Applied Physics」(1月14日号)に掲載されました。

研究者からのコメント

コンプトン散乱法を用いた本手法は、正極材料内のリチウム濃度変化のみならず負極材料内のリチウム濃度変化も非破壊で測定することが可能です。本手法を大型のリチウムイオン二次電池に適用し、正極および負極で起こる反応を、その電気化学反応下で分析することで、高効率かつ高安全性を有したリチウムイオン二次電池の開発に資することが期待されます。

概要

コンプトン散乱X線スペクトルは物質の電子運動量分布(コンプトンプロファイル)を反映します。本研究グループは、SPring-8・ビームラインBL08Wの高輝度・高エネルギーX線を利用したコンプトン散乱測定からリチウム組成の異なる8種類のマンガン酸リチウムのコンプトンプロファイルを精密に測定しました。得られたコンプトンプロファイルはリチウム量に応じて、そのコンプトンプロファイルが変化したため、このコンプトンプロファイルの変化を数値化するパラメータ(Sパラメータ分析)法を新たに開発し、破壊分析である高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP分析)法から得られたマンガン酸リチウムのリチウム量と比較しました。その結果、コンプトンプロファイルの変化と試料のリチウム量との間に相関関係が成り立つことを見出し、マンガン酸リチウムのリチウム量について検量線を決定しました。さらに、本研究で開発したSパラメータ分析法を市販のリチウムイオン電池に適用し、放電過程における二酸化マンガン正極内のリチウム濃度の変化を非破壊で直接測定することに成功しました。

本手法の特徴は、高い物質透過能を有する高エネルギーX線を用いた分析手法であるため、非破壊で元素を定量することが可能であること、ならびに、コンプトンプロファイルが元素濃度の変化に敏感で、物質によるX線吸収等の影響を受けないことにあります。現在、自動車などに搭載する大型のリチウムイオン二次電池開発において、電極内の反応分布を、その反応下で観察する手法の開発が望まれています。本研究のSパラメータ分析法がその一助となり、高効率かつ高安全性を有する大型リチウムイオン二次電池の開発に資することが期待できます。

(a)実験から得られたLi x Mn 2 O 4 (x=0.5, 1.1, 2.0)のコンプトンプロファイルです。リチウム量が増えるに従って、コンプトンプロファイルの波高が高くなっています。(b)Sパラメータは、コンプトンプロファイルにおいて中央部分の面積(S L )と裾野部分の面積(S H )の比で表されます。dは、元素の変化に敏感な領域とあまり敏感でない領域との境界を表します。

詳しい研究内容について

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1063/1.4939304

K. Suzuki, B. Barbiellini, Y. Orikasa, S. Kaprzyk, M. Itou, K. Yamamoto, Yung Jui Wang, H. Hafiz, Y. Uchimoto, A. Bansil, Y. Sakurai, and H. Sakurai
"Non-destructive measurement of in-operando lithium concentration in batteries via xray Compton scattering"
Journal of Applied Physics 119(2), 025103, Published online 8 January 2016

  • 科学新聞(2月5日 6面)に掲載されました。