ヒトiPS細胞から効率よく気道上皮細胞を分化誘導 -気道の再生や難病の治療薬開発に向けた大きな一歩-

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三嶋理晃 医学研究科教授の研究グループは、月田早智子 大阪大学生命機能研究科/医学系研究科教授の研究グループと共同研究を行い、世界で初めて、ヒトiPS細胞から気道繊毛上皮細胞を含む気道上皮細胞を効率よく分化させる方法を確立して繊毛の動きが機能的であることを示しました。

この研究成果は2015年12月24日正午(アメリカ東部時間)に「Stem Cell Reports」のオンライン版で公開されました。

研究者からのコメント

左から三嶋教授、後藤特定助教、小西博士課程学生

ヒトiPS細胞を効率よく気道上皮細胞に分化させる方法を確立することができました。培養室で生まれた気道繊毛上皮細胞が体の中と同じように振動し、粘液を動かす能力を持つことが分かりました。この研究を肺の難病を治療する研究に役立てていきたいと思います。

概要

肺の気管を覆う気道上皮細胞は粘液を分泌し繊毛の運動によって流れを作り出すこと(粘液繊毛クリアランス)によって、異物や病原体を除去するのに重要な役割を果たしています。これまでヒトの細胞でこの研究を進めるためには患者さんやボランティアの方から同意を得て取得した気道上皮細胞が用いられてきましたが、気道繊毛上皮細胞を制限なく入手することは難しかったため、解決手段の一つとしてヒトiPS細胞を気道上皮細胞に分化させる技術の開発が期待されてきました。

今回、三嶋教授の研究グループの後藤慎平 医学部附属病院特定助教、小西聡史 医学研究科博士後期課程学生らは、ヒトiPS細胞を段階的に分化させ、表面蛋白質Carboxypeptidase M(CPM)を用いて肺の元となる細胞(腹側前方前腸細胞)を単離し、サイトカインや化合物などを加えながらさまざまな条件で三次元培養を試みました。その結果、昨年報告した肺胞上皮細胞の分化誘導法とは異なり、繊毛上皮細胞、クラブ細胞、基底細胞、粘液産生細胞、神経内分泌細胞といったさまざまな気道上皮細胞の成分を含む嚢胞構造を作る方法を開発しました。また、さまざまな発生のプロセスで分化に重要とされるNotchシグナルを抑制すると、気道繊毛上皮細胞や神経内分泌細胞が効率よく誘導されることが分かりました。そして、月田教授の研究グループとの共同研究により、ヒトiPS細胞から作られた気道繊毛上皮細胞が、体の中と同じように規則正しく振動し、粘液を動かす機能を持つことを示しました。

粘液繊毛クリアランスの異常は、COPD、気管支喘息、気管支拡張症、嚢胞性線維症、原発性繊毛機能不全症などのさまざまな呼吸器疾患で引き起こされる病態であり、ヒトiPS細胞から気道上皮細胞を効率よく分化させる技術が確立したことで、これらの病態解明や創薬の研究が大きく前進することが期待されます。

左: ヒトiPS細胞由来の気道繊毛上皮細胞が嚢胞構造を形成し、多数の繊毛が内側に向かって伸びる様子。赤:FOXJ1、緑:Acetylated tubulin、青:核。図中のバーは25マイクロメートルを示す。

右: ヒトiPS細胞由来の気道繊毛上皮細胞をシート状に培養し、上から蛍光ビーズを載せたときのビーズの軌跡。時間経過毎に色分けしてイメージ化したところ、繊毛の動きによって蛍光ビーズが一定の方向に流れることが分かった。図中のバーは25マイクロメートルを示す。

詳しい研究内容について

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1016/j.stemcr.2015.11.010

[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/210239

Satoshi Konishi, Shimpei Gotoh, Kazuhiro Tateishi, Yuki Yamamoto, Yohei Korogi, Tadao Nagasaki, Hisako Matsumoto, Shigeo Muro, Toyohiro Hirai, Isao Ito, Sachiko Tsukita, and Michiaki Mishima
"Directed Induction of Functional Multi-ciliated Cells in Proximal Airway Epithelial Spheroids from Human Pluripotent Stem Cells"
Stem Cell Reports Vol. 6, Published Online: December 24, 2015

  • 朝日新聞(12月25日 29面)、京都新聞(12月25日 26面)、産経新聞(12月25日 26面)、日刊工業新聞(12月25日 23面)、毎日新聞(12月25日 26面)および読売新聞(12月25日夕刊 13面)に掲載されました。