ウマの目からの眺め:ウマ、イルカ、チンパンジー、ヒトにおける図形知覚の比較

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友永雅己 霊長類研究所准教授、松沢哲郎 同教授、Carlos Pereira パリ第3大学教授らの国際研究グループは、乗馬体験施設「ホースマンかかみが原」(岐阜県各務原市)に暮らす3個体のウマを対象に世界で初めてタッチパネルを利用した知覚実験を実施しました。その結果を、以前に行ったチンパンジー、ヒト、そしてイルカでの実験の結果と比較しました。その結果、曲線や直線といった共通の要素を含む図形が類似して知覚されるという傾向がすべての種において見られました。

本研究成果は11月26日、英国科学誌「バイオロジー・レターズ」に掲載されました。

研究者からのコメント

友永准教授

このような基礎的な視知覚が同じであることを出発点として、ウマの視覚認知、環境認識についてさらに詳細な検討を加えることにより、ウマが認識している世界をより深く理解できると考えています。そしてこのことが、哺乳類の一員としてのヒトの心の進化を理解するためのユニークな視点をもたらしてくれるでしょう。

概要

ウマは霊長類とは異なり、目が側頭部に配置され、その結果として非常に広い視野を持っていますが、両眼立体視ができる範囲は非常に狭いことがわかっています。視力は0.8程度ですが、色覚に関してはヒトで言うところの赤緑色覚異常のような色覚であるといわれています。これまでにも対面場面を利用した研究は散発的に行われてきましたが、チンパンジーでの実験のようにコンピュータ制御によるタッチパネルを使用した統制された実験はこれまで行われてきませんでした。提示する刺激を厳密に制御し、客観的な行動指標でもって訓練やテストが実施できるこのシステムの導入はウマのこころの研究に大きな展開をもたらしくれる可能性があります。そこで今回、このタッチパネルシステムをウマの研究に導入し、その端緒して彼らの視知覚能力を調べ、その結果を他の哺乳類のそれと比較することにしました。

本研究では、ウマ3個体に対して、コンピュータ制御のタッチパネルを用いた弁別課題(ウマがタッチパネル上に呈示された刺激図形を吻部でタッチするとチャイムが鳴って自動給餌器からニンジン片が一つ報酬として提示される)を実施し、図形の大きさの違いをどの程度まで区別できるかという「弁別閾」の測定を行うとともに、〇×△などの8種類の幾何学図形をペアにした弁別課題での正答率を指標にして図形間の知覚的類似度を算出しました。またこの結果を、以前に行ったチンパンジー、ヒト、そしてイルカでの実験の結果と比較しました。その結果、曲線や直線といった共通の要素を含む図形が類似して知覚されるという傾向がすべての種において見られました。これらの結果は、適応してきた環境がどのようなものであれ、また、その結果として得られた身体がどのようなものであれ、そして視覚への依存度がどのようなものであれ、「見ている」世界はよく似ている可能性を示唆する興味深い成果です。

円の大きさの弁別課題を行っているポニョと共同研究者のFlorine Camus(フローリン・カミュ)

詳しい研究内容について

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1098/rsbl.2015.0701
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/201998

Masaki Tomonaga, Kiyonori Kumazaki, Florine Camus, Sophie Nicod, Carlos Pereira and Tetsuro Matsuzawa
"A horse's eye view: size and shape discrimination compared with other mammals"
Biology Letters 11(11) Published online November 25, 2015

  • 京都新聞(11月26日夕刊 10面)、産経新聞(11月27日 22面)、中日新聞(11月26日夕刊 3面)および毎日新聞(11月27日夕刊 10面)に掲載されました。