幻のラン「タブガワヤツシロラン」の発見 -屋久島原生林の豊かさを象徴-

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公開日

2015年4月、屋久島在住の写真家である山下大明氏は日本では知られていなかったラン科植物を発見しました。この知らせを受けた末次健司 白眉センター特定助教は、山下氏と手塚賢至 屋久島学ソサエティ副会長のとともに現地調査を行いました。標本を精査した結果、この植物はこれまで台湾の一部地域でしか発見されていなかった"Gastrodia uraiensis"であることがわかりました。和名は、発見場所の「椨川(タブガワ)」を冠し、「タブガワヤツシロラン」と名づけられました。

本研究成果は、10月31日発行の日本植物分類学会英文誌「Acta Phytotaxonomica et Geobotanica」に掲載されました。

研究者からのコメント

左から末次特定助教、手塚副会長、山下氏

屋久島の低地照葉樹林で、日本ではこれまで見つかっていなかったラン科植物「タブガワヤツシロラン」が発見されました。このランは、光合成ができず菌類に寄生するため、菌類が豊富な原生林でなければ生育することができないと考えられます。つまりこの植物は、目には見えない菌類の豊穣なネットワークが息づいている証拠で、屋久島の原生林の豊かさの象徴であるといえます。
屋久島が大自然に包まれた島であることは、皆さんご存知のとおりですが、低地の照葉樹林の価値はまだまだ正しく認識されているとはいえません。事実、発見場所に隣接するスギ植林地は伐採されており、環境の変化も懸念されます。豊かな森とそこに棲む菌類に支えられた「タブガワヤツシロラン」の発見は、屋久島の低地照葉樹林の貴重さを再認識させるものです。

概要

今回の日本で知られていなかったラン科植物の発見は、屋久島の原生林の豊かさを象徴するものですが、一般的に屋久島の大自然というと、標高500メートルを超える場所でみられる縄文杉などに主な関心が払われ、それに比べ低地の照葉樹林とその価値は広く認知されているとはいえません。例えば、今回発見された場所のうち一か所は、国立公園の特別地域にも、世界遺産の登録地域にも指定されておらず、森林の伐採が可能な区域となっています。実際にスギ植林地の伐採が行われている場所もあり、そこでは乾燥による菌類相の変化など環境の悪化も懸念されます。かつては、南方熊楠も、シロシャクジョウ、ヒナノシャクジョウ、ホンゴウソウといった光合成をやめた植物が生える場所こそ森の聖域であると述べ、その環境の貴さを訴えました。豊かな森とそこに棲む菌類に支えられた「タブガワヤツシロラン」の発見は、屋久島の低地照葉樹林の重要性を改めて示すものです。

屋久島で発見された日本新産のラン科植物「タブガワヤツシロラン」

詳しい研究内容について

書誌情報

[CiNii URL] http://ci.nii.ac.jp/naid/110010014888

Kenji Suetsugu
"First Record of the Mycoheterotrophic Orchid Gastrodia uraiensis (Orchidaceae) from Yakushima Island, Japan"
APG : Acta phytotaxonomica et geobotanica 66(3), pp. 193-196, 2015-10-31

  • 朝日新聞(11月20日 36面)、京都新聞(11月20日 25面)、産経新聞(11月20日 29面)、日本経済新聞(11月20日夕刊 14面)および毎日新聞(11月20日夕刊 8面)に掲載されました。