表情を処理する神経ネットワークの時空間ダイナミクスを解明

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公開日

佐藤弥 医学研究科特定准教授、河内山隆紀 ATR脳活動イメージングセンタ研究員、魚野翔太 医学研究科特定助教のグループは、健常者を対象として、動的表情を見ている間の脳磁図(MEG)を計測した結果、動的表情を見たときに動的モザイクの場合よりも強く、視覚野の複数の領域(形態や動きの視覚分析に関わる)が150~200ミリ秒というすばやい段階で一斉に活動する様子が捉えました。これらの知見は、心のはたらきがどのような神経ネットワークの時空間ダイナミクスで実現されるかを世界で初めて明らかにするものです。

本研究成果は、2015年7月24日に英科学誌Scientific Reports(サイエンティフィックリポーツ)誌のウェブサイトに速報版として掲載されます。後日、正式版が掲載されます。

研究者からのコメント

表情を処理する脳のしくみを、ミリ秒・ミリメートルという高い時空間分解能で、神経ネットワーク構造として明らかにした研究です。今回の研究成果を基にして、精神疾患における表情コミュニケーションの問題の神経基盤を解明し改善する、といった展開が期待されます。

概要

これまでの機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いた脳画像研究は、表情を処理する神経メカニズムの解明に取り組んできました。しかし、fMRIは脳血流という秒単位の間接的な神経活動の指標を計測するため、ミリ秒単位で起こる実際の神経活動の時間変化は不明でした。さらに、表情を処理するために複数の脳部位が情報をやりとりする神経ネットワークの構造も不明でした。

そこで本研究グループは、健常者を対象として、動的表情を見ている間のMEGで計測することで、この問題を検討しました。MEGは、脳の電磁気信号を計測することで、神経活動をミリ秒単位で明らかにできる計測装置です。このMEG信号の時間情報を、fMRI信号の空間情報と統合する最新の電流源再構成法で解析することで、神経活動をミリ秒・ミリメートルという高い時空間分解能で同定しました。さらに、最新の神経ネットワーク解析法である動的因果モデリング法で、ミリ秒単位で変化する神経ネットワークの構造を検討しました。

その結果、動的表情を見たときに動的モザイクの場合よりも強く、視覚野の複数の領域(形態や動きの視覚分析に関わる)が150~200ミリ秒というすばやい段階で一斉に活動する様子が捉えられました。動的表情は、300~350ミリ秒の段階で、下前頭回の活動も引き起こしました。下前頭回は、他者の運動を自分の運動に結び付ける「ミラーニューロン」があるといわれている部位です。さらに神経ネットワーク解析から、まず視覚野の活動が下前頭回の活動を引き起こすという順方向のネットワークが形成され、200ミリ秒以後に下前頭回の活動が視覚野の活動を調整するという逆方向のネットワークが形成されることが解明されました(図)。これらの知見は、動的表情を見たときに、顔の形態や動きなど多様な視覚情報を分析し、表情に共鳴して自分の運動を起こし、自分の運動情報を使って視覚処理を調整する、という心のはたらきが、どのような神経ネットワークの時空間ダイナミクスで実現されるかを世界で初めて明らかにするものです。


動的表情を見たときに起こる脳活動の時間変化。150~200ミリ秒で多様な視覚分析に関わる視覚野の領域が活動し(黒矢印)、300~350ミリ秒に運動実行に関わる下前頭回が活動した(白矢印)。

詳しい研究内容について

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/srep12432

[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/198882

Wataru Sato, Takanori Kochiyama & Shota Uono
"Spatiotemporal neural network dynamics for the processing of dynamic facial expressions"
Scientific Reports 5, Article number: 12432 Published 24 July 2015