抗HIV-1薬の新規抗癌作用の解明に成功 -難治性血液がんである成人T細胞白血病の新規治療に期待-

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多田浩平 医学研究科研究員、瀧内曜子 同大学院生、小林正行 同助教、高折晃史 同教授、武田俊一 同教授らの研究グループは、エイズ治療薬である抗ウイルス薬アバカビルが、成人T細胞白血病細胞に強力な抗癌作用があることを見出し、さらにそのメカニズムとして、がん細胞におけるDNA修復酵素の異常が原因であることを解明しました。

本研究成果は、2015年4月25日付(日本時間)の米国科学誌「Science Advances」(オープンアクセス雑誌)に掲載されることになりました。

研究者からのコメント

左から、小林助教、高折教授、多田研究員、瀧内大学院生

この治療をなるべく早く患者さんにお届けできるよう、現在、アバカビルの適応拡大を目指した医師主導治験の実施準備中です。

本研究成果のポイント

  1. 正常細胞には毒性のない抗ウイルス薬アバカビルが特定のがん細胞には強力な抗癌剤となる。
  2. その標的分子がDNA修復酵素TDP1であることを見出した。
  3. これにより、極めて難治性の白血病であるATLの新規治療法開発が見込まれる。
  4. 今後、他の既存の抗癌剤との組み合わせにより新たながん化学療法の開発が期待される。
  5. 同様のDNA修復機構異常を有する他の癌への応用も考えられる。

概要

成人T細胞白血病(ATL)は、HTLV-1感染により惹き起こされる極めて予後不良の血液がんです。現在、日本には108万人のHTLV-1感染者が存在し、大きな社会問題となっています。一方、同じヒトレトロウイルスHIV-1により惹き起こされる疾患としてエイズがあります。エイズは、現在では抗ウイルス剤によりコントロール可能となりましたが、アバカビルは、エイズ治療の第1選択として使用される抗ウイルス剤です。

今回、本研究グループは、アバカビルがATL細胞ならびにHTLV-1感染細胞を選択的に殺すことをまず見出しました。アバカビルはATL細胞に染色体断裂(DNA2重鎖断裂)を惹き起こしますが、これはATL細胞におけるDNA修復機構の異常が示唆されました。そこで、2種類のスクリーニング法を用いて、その異常の責任分子を同定したのがTDP1です。TDP1は、DNAの3’端に不要な塩基等が取り込まれた際に、それを取り除く酵素です。ATL細胞では、本酵素の発現低下のために、誤ってDNAへ取り込まれたアバカビルを取り除くことができず、DNAの断裂を惹き起こし、細胞死に至ることを証明しました(図)。


(上図)正常細胞においては、ABCはTDP1により取り除かれる。
(下図)ATL細胞においては、ABCはDNA断端に残り、DNA伸長の停止、細胞死が惹き起こされる。

詳しい研究内容について

抗HIV-1薬の新規抗癌作用の解明に成功 -難治性血液がんである成人T細胞白血病の新規治療に期待-

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1126/sciadv.1400203

[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/197525

Kohei Tada, Masayuki Kobayashi, Yoko Takiuchi, Fumie Iwai, Takashi Sakamoto, Kayoko Nagata, Masanobu Shinohara, Katsuhiro Io, Kotaro Shirakawa, Masakatsu Hishizawa, Keisuke Shindo, Norimitsu Kadowaki, Kouji Hirota, Junpei Yamamoto, Shigenori Iwai, Hiroyuki Sasanuma, Shunichi Takeda, Akifumi Takaori-Kondo
"Abacavir, an anti–HIV-1 drug, targets TDP1-deficient adult T cell leukemia"
Science Advances Vol. 1 no. 3 e1400203, 24 Apr 2015

掲載情報

  • 朝日新聞(4月25日 7面)、京都新聞(4月25日 27面)、産経新聞(4月25日 26面)および毎日新聞(4月25日 3面)に掲載されました。