がんの遠隔転移を担う新規遺伝子ネットワークUCHL1-HIF-1の発見 -新たながん治療法と予後予測法の確立に繋がる基礎研究-

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原田浩 医学部附属病院特定准教授、平岡真寛 同教授、後藤容子 医学研究科大学院生を中心とする研究グループは、UCHL1-HIF-1という遺伝子経路が、がんの転移を担っており、同経路の遮断によって転移を激的に抑制できることを発見し、新たな診断・治療法の確立に向けた道を拓きました。

本研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」で公開される予定です。

研究者からのコメント

左から原田特定准教授、後藤大学院生

本研究で私たちは、悪性腫瘍(がん)の転移を担う新規遺伝子ネットワークとして、UCHL1-HIF-1経路を見出しました。UCHL1-HIF-1経路の遮断によって、がんの転移を抑制するという新たな治療法の確立に繋がることが期待されます。

概要

がんの転移はがん患者の主要な死因の一つで、精力的ながん研究を通して克服すべき課題です。これまでの基礎研究および臨床研究から、低酸素誘導性因子1(hypoxia-inducible factor1:HIF-1)という遺伝子が、がんの遠隔転移の成立において重要な役割を果たすことが指摘されていました。しかし、HIF-1を活性化してがんの転移を導く遺伝子ネットワークは解明されておらず、有効な治療法を確立する上で大きな障害となっていました。

そこで本研究チームは、HIF-1活性化因子を網羅的にスクリーニングする遺伝学的手法を確立し、Ubiquitin C-terminal hydrolase-L1(UCHL1)を同定しました。そして、UCHL1がHIF-1を活性化することによって、がん細胞の転移能が亢進すること、逆にUCHL1の機能を阻害した場合に、遠隔転移発生率が有意に低下することを見い出しました。これにより、「がんの転移を抑制するための標的分⼦として、またがん患者の予後を予測する指標(マーカー)として、UCHL1を活⽤できること」が世界で初めて⽰されました。がんの完治に繋がる新たな診断・治療法が開発されることが期待されます。


図:恒常的にルシフェラーゼを発現するがん細胞を免疫不全マウスの尾静脈から移植し、肺における転移巣の形成を光イメージング(左)と摘出肺のコロニー数(右)で評価した。UCHL1の過剰発現によって、肺に形成された転移コロニー数が有意に増加し、これがHIF-1阻害剤YC-1の投与によって抑制されることが明らかになった。

詳しい研究内容について

がんの遠隔転移を担う新規遺伝子ネットワークUCHL1-HIF-1の発見 -新たながん治療法と予後予測法の確立に繋がる基礎研究-

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/ncomms7153

Yoko Goto, Lihua Zeng, Chan Joo Yeom, Yuxi Zhu, Akiyo Morinibu, Kazumi Shinomiya, Minoru Kobayashi, Kiichi Hirota, Satoshi Itasaka, Michio Yoshimura, Keiji Tanimoto, Masae Torii, Terumasa Sowa, Toshi Menju, Makoto Sonobe, Hideaki Kakeya, Masakazu Toi, Hiroshi Date, Ester M. Hammond, Masahiro Hiraoka & Hiroshi Harada
"UCHL1 provides diagnostic and antimetastatic strategies due to its deubiquitinating effect on HIF-1α"
Nature Communications 6, Article number: 6153 Published 23 January 2015

掲載情報

  • 京都新聞(1月24日 27面)、産経新聞(1月27日 27面)、中日新聞(1月24日 3面)、日本経済新聞(1月24日夕刊 8面)および読売新聞(3月2日 21面)に掲載されました。