植物で初、雌雄異株性の性決定因子を柿において発見

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田尾龍太郎 農学研究科准教授と赤木剛士 同助教は、Luca Comai カリフォルニア大学ディビス校教授、Isabelle M. Henry 同研究員とともに、植物で初めて、雌雄異株性の性決定因子を柿において発見しました。

本研究成果は、2014年10月31日付け(米国時間)の科学雑誌「Science」ならびに2014年6月15日付けの園芸学会雑誌「The Horticulture Journal(旧Journal of the Japanese Society for Horticultural Science)」に発表されました。

研究者からのコメント

左から田尾准教授、赤木助教

私たちが所属する果樹園芸学研究室では、その創設以来、長年にわたって柿の遺伝資源を収集してきました。この遺伝資源の中には、多様な性表現を示す柿の品種が存在します。柿の性表現は、果実の生産性に深く関わることから、古くより興味がもたれ、精力的に研究が行われてきました。しかしながら、柿の研究材料としての扱いにくさから、性決定のメカニズムは不明でした。また柿に限らずホップやアスパラガス、パパイヤやピスタチオ、ナツメヤシなど、雌雄性が生産性に大きく関与する他の作物においても、さらには植物全体をみても、雌雄異株性を決定する遺伝的因子は未知でしたが、今回、雌雄異株性の性決定因子が植物で初めて、柿において明らかにされました。

「桃栗三年柿八年」の故事にもあるように、果樹の開花には長い年月がかかります。今回、実験材料にしたマメガキの交配集団も、この研究のために、10年以上前に交配して作出し、育成してきたものです。研究材料としては扱いにくい木本性植物である柿の研究を地道に続けることが、植物科学分野における画期的な発見につながったことを、果樹園芸学分野の研究者として非常に喜ばしく感じています。

概要

生物はその長い進化過程の中で、種としての多様性を維持するための重要機構として雌雄性(性決定)を発達させてきました。この私たちにとってなじみの深い「性」は、生物種の間で特徴こそ共通しているものの、性決定の仕組みは種の間で異なっており、種の進化の中で独立して獲得された形質です。植物においても、その起源は両性花のみをつける両全性であるとされていますが、いくつかの植物種では多様性の維持のための雌雄性を獲得してきました。植物の雌雄個体が明確に分離する性表現型(雌雄異株性) は、多くの動物における性決定と同様に、性染色体によって制御されていることが示唆されていましたが、その決定因子はいずれの植物種においても未同定でした。

本研究では、まず、広く栽培されている柿( Diospyros kaki )の近縁種であり雌雄異株性を示すマメガキ( D. lotus )の交配集団を用いて、カキ属の性決定が哺乳類などと同様にXY型の性染色体によって制御されていることを解明しました。この性染色体上に存在すると考えられる性決定因子を同定するために、一般的にはゲノムマップと呼ばれる遺伝地図情報や整備されたゲノム情報が必要となりますが、カキ属植物はこれらの情報が全く整っていない、いわゆる「完全な非モデル植物」であるという問題がありました。

そこで本研究では、次世代シークエンシング(NGS)技術と呼ばれる大量遺伝情報解析法を適用し、非モデル植物の解析に特化したさまざまなアルゴリズムを構築することで、多くの問題を解決し、Y染色体の雄特異的領域に存在する非翻訳RNA(タンパク質をコードしていない遺伝子)「OGI(雄木)」が雄化に関わる性決定を担う最上流因子であることを解明しました。OGIは小さなRNA分子(small RNA)をコードする遺伝子であり、それとそっくりなDNA配列を有する「MeGI(雌木)」と名付けた遺伝子を認識して、その転写産物(RNA)の分解反応におけるトリガーとして機能します。遺伝子組み換えによる機能解析からMeGIは雄器官の生育を阻害して雌化を促進することが明らかとなり、OGIはMeGIを分解してその機能を阻害することで雄化を誘導していることが示されました。

本研究は植物の雌雄異株性を制御する性決定因子とその作用機作を同定した初めての報告となります。また同時に、非モデル生物でのNGSを利用した解析で実際に原因となる遺伝子を特定した希有な例でもあります。

今回の研究に用いたさまざまなカキ属植物の果実。手前に写っている小型の果実(5個)がマメガキ( Diospyros lotus )の果実です。一番奥のものは老鴉柿( D. rhombifolia )であり、その他は柿( D. kaki )の果実です。

詳しい研究内容について

植物で初、雌雄異株性の性決定因子を柿において発見

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1126/science.1257225

Takashi Akagi, Isabelle M. Henry, Ryutaro Tao, Luca Comai
"A Y-chromosome–encoded small RNA acts as a sex determinant in persimmons"
Science Vol. 346 no. 6209 pp. 646-650 31 OCTOBER 2014

[DOI] http://dx.doi.org/10.2503/jjshs1.CH-109

[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/191079

Takashi Akagi, Kei Kajita, Takanori Kibe, Haruka Morimura, Tomoyuki Tsujimoto, Soichiro Nishiyama, Takashi Kawai, Hisayo Yamane and Ryutaro Tao
"Development of Molecular Markers Associated with Sexuality in Diospyros lotus L. and Their Application in D. kaki Thunb."
Journal of the Japanese Society for Horticultural Science Vol. 83 No. 3 pp. 214-221 Released: March 27, 2014

掲載情報

  • 朝日新聞(11月1日夕刊 9面)、京都新聞(10月31日 30面)、中日新聞(10月31日 32面)、日刊工業新聞(10月31日 23面)、読売新聞(11月1日 4面)および科学新聞(11月14日 4面)に掲載されました。