構造異常糖タンパク質の分解に必須な糖鎖刈り込み機構を解明 -最新ゲノム編集解析により醜いアヒルの子が美しい白鳥に変身-

ターゲット
公開日

2014年9月2日

森和俊 理学研究科教授、岡田徹也 同助教、蜷川暁 岡崎統合バイオサイエンスセンター研究員(元京都大学理学研究科生物科学専攻)らの研究グループは、細胞にとって有害な構造異常糖タンパク質を小胞体から抹消する仕組みについて、従来のモデルを一新する提唱をしました。

本研究成果は、米国科学雑誌「The Journal of Cell Biology」誌の8月4日号に掲載されました。

研究者からのコメント

革新的なゲノム編集法の登場により、ヒト培養細胞でも比較的容易に遺伝子破壊を行うことができる時代が到来しました。この新技術を構造異常糖タンパク質の分解機構の解明に用いたところ、過剰発現や遺伝子発現抑制法によって導かれていたモデルとは全く異なる結果が得られました。

細胞や生体の中で、本当は何が行われているのかを明らかにしていくことができる今後の研究を楽しみにしています。

ポイント

  • EDEM1、EDEM2、EDEM3はいずれも糖鎖刈り込み酵素活性を持つ。
  • EDEM2によって構造異常糖タンパク質からの糖鎖刈り込みが開始される。
  • EDEM1およびEDEM3は、EDEM2に続いて第2段階目の糖鎖刈り込みを行う。

概要

分泌タンパク質や膜タンパク質が生合成される小胞体では、タンパク質の厳密な品質管理が行われており、正しい構造を獲得しないタンパク質は不良品として分解処理されます。小胞体で合成されるタンパク質の多くには糖鎖が付加されます。これら糖タンパク質が正常な構造を獲得できない場合、分解の目印として、糖鎖に含まれる9個のマンノースが7個以下へと刈り込みされます。高等動物では糖鎖刈り込み酵素の候補分子として、EDEM1、EDEM2、EDEM3が注目されてきましたが、実際に糖鎖刈り込み酵素活性を有するのか、それとも単純に糖鎖を認識する分子として機能するのか、10年来議論されてきました。特に、EDEM2には糖鎖刈り込み酵素活性がないことが通説となっていました。

本研究において同研究グループは、最近開発された革新的なゲノム編集法であるTranscription activator-like effector nuclease(TALEN)法を活用し、これまで困難であったヒト培養細胞を用いた遺伝子破壊解析を行いました。その結果、EDEM1、EDEM2、EDEM3、全てが糖鎖刈り込み活性を有することを初めて実証しました。また、各EDEMタンパク質の酵素活性には基質特異性があることを発見し、糖鎖刈り込みの第1段階(9個のマンノースを持つ糖鎖からマンノース1個を刈り込む反応)はEDEM2により行われること、第2段階(8個のマンノースを持つ糖鎖からマンノースを1個以上刈り込む反応)は、EDEM1あるいはEDEM3により行われること、従来はEDEM1が最も重要な分子として捉えられていましたが、EDEM1よりEDEM3の寄与が大きいことを明らかにしました。さらに、EDEM2による糖鎖刈り込みの開始が、構造異常糖タンパク質分解経路に必須であることも明らかにしました。

EDEMタンパク質の酵素活性の有無に関する長年の議論に決着をつけたこれらの成果は、これまでの糖鎖刈り込みモデルを一新しました。今回の発見は、小胞体における構造異常糖タンパク質分解機構を理解する上で極めて重要なものです。構造異常タンパク質の産生や分解処理機構の破綻は、フォールディング病と総称されるさまざまな疾患に関与することが知られており、本研究の成果は、これら疾患の発症機構の解明や新しい治療戦略の立案にもつながると期待されます。


EDEM2が刈り込みを開始した後に、EDEM3/EDEM1がさらに刈り込みを行い、異常糖タンパク質を分解へと導く。

詳しい研究内容について

構造異常糖タンパク質の分解に必須な糖鎖刈り込み機構を解明 -最新ゲノム編集解析により醜いアヒルの子が美しい白鳥に変身-

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1083/jcb.201404075

[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/189557

Satoshi Ninagawa, Tetsuya Okada, Yoshiki Sumitomo, Yukiko Kamiya, Koichi Kato, Satoshi Horimoto, Tokiro Ishikawa, Shunichi Takeda, Tetsushi Sakuma, Takashi Yamamoto, and Kazutoshi Mori
"EDEM2 initiates mammalian glycoprotein ERAD by catalyzing the first mannose trimming step"
The Journal of Cell Biology vol. 206 no. 3 pp. 347-356 Published August 4, 2014

掲載情報

  • 京都新聞(9月27日 9面)、中日新聞(9月3日 3面)および科学新聞(10月3日 4面)に掲載されました。