隣接する食害植物由来の青葉アルコールの取り込みと配糖体化が明らかにする新たな植物匂い受容と防衛

ターゲット
公開日

2014年4月29日

高林純示 生態学研究センター教授らの研究グループと松井健二 山口大学医学系研究科(農学系)教授らの研究グループは、植物が昆虫に食べられると、香り物質を放散する現象を共同研究してきました。今回、被害植物から放散される香りが周りの健全な植物に取り込まれ、取り込んだ植物はその香り化合物を防御物質に変換し、将来予想される食害に備えていることを明らかにしました。

この研究成果は、米国科学アカデミー紀要のオンライン版に掲載されることになりました。

研究者からのコメント

左から高林教授、松井 山口大学教授、杉本貢一 生態学研究センター研究員

本研究は、動物のような嗅覚を持たない植物でも、香り化合物を介して情報伝達していることと、その受容システムの一つを分子レベルで初めて示したものです。今回の研究の場合は、トマト株が毒性の無い青葉アルコールを選択的に取り込んで、ハスモンヨトウ幼虫に対する防衛物質に変換しています。

また青葉アルコールを受け取る実態は、トマト植物内の配糖体化と呼ばれる酵素によるものでした。これはトマト特有の現象ではなく、青葉アルコールを人工的に暴露することで、11科24種の植物においてそれを配糖体化することも明らかにしました。現在私たちは、トマト葉を用いて配糖体化酵素遺伝子を同定する研究を進めています。今後、この遺伝子の働きをさまざまに制御することで、植物間の情報伝達の生態学的な意味がより明確にでき、環境に優しい農業への応用にもつながるかもしれません。

概要

植物は虫に食べられると特別な香り物質を作って環境中に放散します。この食害誘導性の香りは、加害している虫の天敵をボディーガードとして呼び寄せるという機能があります。さらに、隣接するまだ食べられていない植物がこの香りを受容した場合には、「隣の植物が虫に攻撃されている。私も気をつけて前もって防衛しなければ」と擬人化できるような誘導的な防衛反応を示します。

しかし、隣の植物がどのようにして香り物質を受け取るのかは明らかになっていませんでした。

本研究グループは、トマトとその害虫の一つであるハスモンヨトウ幼虫を用いた実験で、健全なトマトは幼虫に食べられている隣の植物から漂ってきた香り物質群の中から、青葉アルコールを取り込んで自分の体の中で糖と結合させることを発見しました。この反応は、香り成分の一つである青葉アルコールを植物が受容する仕組みと言えます。全く分かっていなかった植物の香り受容機構の中の一つが世界で初めて明らかになりました。さらに糖と結合させることで無毒の青葉アルコールが幼虫に対する抵抗物質になることも分かりました。植物の新しい防衛の形です。

図:ハスモンヨトウ幼虫の食害を受けているトマト植物(左側の植物)からは、さまざまな香り化合物が放出される。そのうちの青葉アルコール(図の緑で囲われた物質)は、隣の健全トマト植物に取り込まれ、配糖体へと変換され蓄積される。この配糖体はハスモンヨトウ幼虫の生育を阻害する。進入禁止マークのついた揮発性化合物も食害を受けたトマトから放出される主要成分であるが、それらは配糖体化されない

詳しい研究内容について

隣接する食害植物由来の青葉アルコールの取り込みと配糖体化が明らかにする新たな植物匂い受容と防衛

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1320660111

Koichi Sugimoto, Kenji Matsui, Yoko Iijima, Yoshihiko Akakabe, Shoko Muramoto, Rika Ozawa, Masayoshi Uefune, Ryosuke Sasaki, Kabir Md. Alamgir, Shota Akitake, Tatsunori Nobuke, Ivan Galis, Koh Aoki, Daisuke Shibata, and Junji Takabayashi
"Intake and transformation to a glycoside of (Z)-3-hexenol from infested neighbors reveals a mode of plant odor reception and defense"
PNAS published ahead of print April 28, 2014

掲載情報

  • 朝日新聞(4月29日 35面)、京都新聞(4月29日 30面)、中日新聞(4月29日 24面)および日本経済新聞(4月30日 30面)、読売新聞(5月19日 12面)および科学新聞(5月30日 2面)に掲載されました。