京都人類学研究会12月季節例会 -シンポジウム「「仕事」への人類学的アプローチ: 家事、労働、手仕事から考える」-

開催日
2016年12月10日 土曜日
時間
13時00分(12時30分開場)~17時00分(終了予定)
ターゲット
要申し込み
不要
公開日
※ ポスターを追加しました。(2016年12月2日)

 2016年3月に上梓した「仕事の人類学-労働中心主義を超えて」(中谷文美・宇田川妙子編、世界思想社)は、働くことをめぐって経済学、社会学、歴史学、哲学などの諸分野で蓄積されてきた成果を念頭に置きつつも、人類学ならではのアプローチの可能性を提示する試みです。「労働/労働でないもの=余暇」という近代的労働観に基づいた問題設定から零れ落ちる諸活動にも目配りし、性別分業を含む分業のあり方の多様性と変化に注目した共同研究の成果として編みました。

 本シンポジウムは、上記論文集の内容を踏まえつつ、さらに異なる角度から「仕事」に光をあてた三つの報告から構成されます。多様な「仕事」とその担い手を人類学的な視点から読み解くことで、「働くこと」、「仕事」とは何かをさらに深く考えます。

基本情報

開催地
  • 吉田キャンパス
人文科学研究所 4階大会議室
本部・西部構内マップ[38]
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/access/campus/yoshida/map6r_y/
対象
  • 企業・研究者の方
どなたでも参加いただけます。
定員
なし
参加費
資料代として200円をいただきます。

イベント内容

プログラム

趣旨説明

中谷文美(岡山大学教授)

研究発表

宇田川妙子(国立民族学博物館准教授)
金谷美和(国立民族学博物館外来研究員)
中谷文美

コメント

三田牧(神戸学院大学准教授)
服部志帆(天理大学講師)

総合討論・質疑応答

発表者・タイトル・要旨

  • 宇田川妙子
    「労働(仕事)」をつくる人たち: 現代イタリア社会における「労働」の意味

イタリアはもともと就労率が低く、構造的に働き口の少ない国と言われており、その状況は近年いっそう深刻化しています。発表者は直近の編著の中で、男性雇用労働者の事例を通して、そうしたイタリア社会で働く人々にとって「労働」とは何かを考え、彼らの労働・仕事が、たとえ雇用労働者の場合であっても、きわめて社会性を帯びていることを指摘しました。今回の報告では、より厳しい労働状況に置かれている若者や女性たちを事例として、彼女・彼らがそれでも何らかの労働・仕事を探そうとしている様子を見ていきます。その際、なかでも彼らが「労働」をつくろうとしている側面に焦点をあてながら、彼らにとっての労働・仕事の意味をさらに考えていきます。そしてこの考察をとおして、仕事・労働という問題に対して、新たなアプローチの可能性をさぐっていくことにします。

  • 金谷美和
    被災地で手芸を「仕事」にする: 東日本大震災の事例から

2011年に発生した東日本大震災被災地における手仕事グループについての民族誌的事例をとおして、手芸という仕事について考察する。震災後、仮設住宅においてボランティアの先導で、手を動かしてものをつくる活動が数多く行われました。そのうち定期的に一定のメンバーが集まって手仕事に携わるようになったものを本発表では「手仕事グループ」と呼びます。制作物は、糸や布を素材とした編み物や縫い物であり、参加者の多くは中高年の女性です。活動への参加動機は、被災後の日常をとりもどすまでの時間をやりすごすためであったり、友人と交流するためであったりしましたが、そのなかから、商品製作を行って手仕事を仕事にしようとする女性たちがあらわれています。社会的認知と収入を得ることにやりがいを感じられる反面、手芸に対する価値付けの低さなどから仕事とみなされない状況もあります。手仕事グループの活動に注目することで、仕事の周縁に位置付けられる諸活動について考察し、「仕事」とは何かという問いにせまっていきます。

  • 中谷文美
    「価値ある仕事」としての家事: オランダの事例を中心に

料理や洗濯といった具体的な家事行為を示す言葉がある一方で、家事全般を一言で言い表す語彙を持たない社会は珍しくありません。つまり、家事とは産業社会の成立とともに生まれた概念であり、資本主義の進展が出現させた新たな「市場」と「家族」の関係において、市場によって商品化されず、家庭にとどまった労働を指します。

1960年代以降のフェミニズムがくりかえし議論の遡上に乗せてきた「家事も労働である」という主張は、家庭の主婦が無償で行う家事を総体として可視化させ、無償=不払いではあっても、価値ある労働であることを認めさせるためのものでした。

本報告では、主婦の主流化と周縁化という歴史的経過を経たオランダ社会を題材に、とくに1950年代~60年代前半の、いわば主婦の全盛期を生きた女性たちとその娘世代にあたる女性たちの生活を比較します。主婦向けの家事手引書や生活時間調査、そしてインタビュー事例などを通じ、二世代の間に家事労働の担い手や評価をめぐって何が変わり、何が変わらなかったかを検討することがねらいです。そこで明らかになるのは、主婦という家事・育児専業者の存在を前提としなくなった社会において、無償労働とカテゴリー化される領域がどのような価値を持ち続け、誰によってどのように担われるかという問題をめぐっての一つのありうるべき道筋です。

備考

京都人類学研究会2016年度運営委員
代表: 平野(野元)美佐
お問い合わせ
京都人類学研究会事務局
E-mail: kyojinken2016*gmail.com (*を@に変えてください)