平成21年度「京都大学総長賞」表彰式 挨拶 (2010年3月17日)

第25代総長 松本紘

 皆さん、本日は京都大学総長賞の受賞おめでとうございます。この総長賞は、学業・課外活動・社会活動等において特に優れた成果を挙げ他の学生の範となり、本学の名誉を高めた学生に対する表彰制度として設けられ、今年度で5年目を迎えました。この間34組の個人と団体を表彰して参りましたが、重要な成果が期待される質の高い論文を発表した方、学業と両立しながら課外活動でも立派な成績を挙げられた方、社会活動において大学と地域の架け橋となられた方や京大生のパワーをいかんなく発揮された方と、実に様々な活きの良い学生諸君を表彰することができました。本日、ここに表彰を受けられる個人・団体とも、まさに京都大学の学生を代表するに相応しい魅力・活力・実力の溢れる学生であります。

松本総長 ナノ・マイクロシステム工学研究室4回生の5名の皆さんは、「第1回国際ナノ・マイクロ技術コンテスト」国内予選において第1位を獲得し、続いて出場した本戦では第3位に輝きました。応募作品である「MEMG(メムジー)」は「音の鳴るエアギター」をコンセプトにしているものです。「エアギター」といえば世界的な競技会において日本人が優勝するなど近年認知度が高まってきていますが、ギターを弾く動作だけを行うものであって実際には音の出ないものであります。しかし、「MEMG(メムジー)」は手に装着したセンサーがギターを弾く仕草を感知して実際に音が出る装置になっており、その着目点のユニークさと装置の精度の両面から高い評価を受けました。この快挙は京大生の豊かな発想力とそれを可能にする実行力を顕著に示したものであります。
  理学研究科の岸本展(きしもと のぶ)さんは、2009年度日本数学会賞において「建部賢弘(たけべ たかひろ)奨励賞」を受賞されました。建部賢弘とは江戸時代中期の数学者で、和算の発展に大きく寄与した人物です。特別賞は若くして優れた業績を挙げられた人の顕彰を、奨励賞は優れた業績で数学研究を始めた若い人達の奨励をそれぞれ目的として日本数学会において制定されたものだそうですが、奨励賞であっても博士課程在学中の学生が受賞することは稀であり、研究業績が既に大学で教鞭を取る研究者に比肩して高く評価されていることが窺えます。
  工学研究科の河野直(こうの なお)さんと藤田桃子(ふじた ももこ)さんは、建築学の分野において二人の共作による共同設計作品で「日本建築学会設計競技の最優秀賞」とSDレビュー2009第28回建築・環境・インテリアのドローイングと模型の入選展の「鹿島賞」を受賞されました。お二人ともまだ修士課程の学生でありますが、若手建築家の登竜門ともいうコンペで実力の片鱗を見せており、今後の活躍が大いに期待されるものです。
  医学部人間健康科学科の長島俊輔(ながしま しゅんすけ)さんは、日本生理人類学会「第3回研究奨励発表会において優秀発表賞」の評価を受けられました。研究テーマのユニークさもさることながら大学院生にまじっての学部学生の受賞ということで、本学学生の実力を示すとともに他の学生を大いに励ます成果を挙げられたものとして高く評価いたします。
  京都大学体育会本部は、体育会クラブの強化、京都大学東京大学総合対抗戦の開催、体育会各部OB会連合の設立準備と様々な事業に奔走し大学に貢献されました。近年学生の体育会離れが言われますが、若い間に心と身体を徹底的に鍛えることは学生の本分である勉学を進めるためにも、将来どの分野においても社会のリーダーとして活躍するためにも、非常に重要なことです。かつては本学出身者からオリンピックのメダリストを輩出したことがありました。もちろん世界大会に出場することやメダルを獲得することだけが体育活動の最終目標ではありませんが、そのような高みを目指して日夜切磋琢磨することから得られるものは決して競技会の結果だけではありません。授業・研究を正課活動、それ以外は課外活動とする向きもありますが、正課・課外とも疎かにすることなく今後とも励んでいただきたいと思います。
  生命科学研究科の吉川真由(よしかわ まゆ)さんは、自身の研究を貧困問題等の国際社会問題の解決という大きな視点でとらえておられます。そのために積極的に国際交流事業に参加して見聞を広め意識の向上に努めるとともに自身の考えを発信する機会も得て精力的に活動されています。研究テーマを深めていくことと視野を広げていくことを両立するために実際に行動に移すことで今後スケールの大きいリーダーへと成長されることと大いに期待しています。
  体育会居合道部は、西日本学生居合道大会において4年連続優勝、全日本学生居合道大会においては個人・団体とも優勝と好成績を収められました。居合道では技能の修練のみならず人格の涵養なども含めた自己修練も重要な要素であり、部が続けて好成績を収め続けているのは、各部員の努力に加え部全体として切磋琢磨し合うよき伝統を築き上げているものと評価しました。
  情報学研究科の単麟(タン リン)さんは、本学の「京都大学中国人留学生学友会」の会長を務めるかたわら、「京都地区中国留学人員友好聯誼会」の会長も務めておられます。両団体において中国人留学生の支援や相互扶助に加え、文化・芸術・学業等様々な分野での日中友好に尽力されるとともに、他の国からの留学生や日本人学生との交流を図るなど精力的に活動されています。また、京都府からは「京都府名誉友好大使」に任命され、国会議員や府市会議員との意見交換会で留学生を代表する立場から留学生政策について提言されるなど、多方面にわたって活躍されています。

 京都大学総長賞は、本学学生の中で、学業・課外活動・社会活動等において特筆すべき業績を挙げた学生を讃えるとともに、他の学生の範としてポジティブな刺激を与え、魅力・活力・実力ある京都大学創りに向けて広く啓発すべく創設された表彰制度です。本日、京都大学総長賞を受賞された皆さんのより一層のご活躍を祈念するとともに、学生に限らず皆さんの活躍に刺激を受けた人がどんどん出てくることを期待してやみません。

 最後にチャールズ・ダーウィンについてご紹介したいと思います。ダーウィンはイギリスの生物学者で、自然選択による進化論を説いた『種の起源』を1859年に出版しています。これは、自然科学書ですが、いろいろな読み方が可能です。「生存競争には、最も強いものが生き残るのではない。最も賢いものが生き残るものでもなく、変わりうるものが生き残るのである」と読み取ることもできます。現状維持は衰退と同意語であり、環境に合わせて変えていくことが必要です。京都大学も護るべきところは護りつつも、時代の変革に合わせて対応していくべきであると考えています。
  皆さん方にとってこのたびの総長賞受賞が更に発展するきっかけになることを祈念して、私の挨拶とさせていただきます。

 本日は誠におめでとうございます。

関連リンク

平成21年度「京都大学総長賞」表彰式を挙行しました。(2010年3月17日)