京都大学国際シンポジウム 挨拶 (2008年12月5日)

第25代総長 松本 紘

松本総長 本日はようこそ第12回京都大学国際シンポジウムにお集まりくださいましてありがとうございます。海外や国内のさまざまな地域から、幅広い年齢層にわたってご来聴くださっていると伺い、大変有り難く存じます。

 京都大学では、世界に開かれた大学として先端的な学術研究を積極的に展開していくため、本学が誇る独創的な学術研究を対象とする国際シンポジウムを世界各地で開催しています。KUISと呼んでおりますこのシンポジウムも今年で9年目となります。京都大学は、多元的な課題の解決に挑戦し、地球社会の調和ある共存に貢献することを基本理念としております。今回のシンポジウムのテーマ「変化する人種イメージー表象から考える」は、この基本理念の追求にきわめてふわさしいテーマだと思います。

 近代以降現代に続くまでの歴史を振り返れば、人種は地球社会における戦争や紛争の一つの基軸となってきました。人種間対立はきわめて根深い問題でありながら、日本社会においては、人種問題といえばアパルトヘイトやアメリカの黒人差別といった理解が一般的で、まるで日本やアジアとは無関係であるかのような、いわば対岸の火事のように見なされてきました。また人種といえば科学の問題ではなく、社会の問題であるかのよう思われがちですが、ナチズムにせよアメリカの奴隷制にせよ、いかに科学と社会が結びつき究極的な人種主義を生み出してきたかは歴史が示すとおりです。今回は、本学に縁が深く、且つ世界的に著名な先生方をもお招きしての開催であり、日本・アジアの研究者と海外の研究者が、それも文系理系を融合させて、一堂に会して考えるといったこのようなシンポジウムは、まことに異議深いものであると思います。

 今回のシンポジウムの企画の中心であった京都大学人文科学研究所は、今日、全国さまざまな大学などの研究機関で行われています文系の共同研究のひな形を作ったところであります。人文科学研究所の伝統にそって、今、人種という今日的な課題に学術的に正面から向かい合うことは、地球社会の調和ある共存に大学として資すると考えます。

 京都大学は、多様性の共存を実践面でも進めています。多少手前味噌になることをお許しいただけますなら、京都大学は、民族学校出身者の受験資格を全国の国立大学に先駆けて認め、2004年3月、実際に初めての合格者を出しました。また女性教員の比率の低さが長年の課題でしたが、2006年には「京都大学女性研究者支援センター」を設立し、その後国立大学では全国初の取り組みとして、病児保育を大学内に開設しました。多様な人材がそれぞれの持ち味を生かしながら活躍するのは、本人はもとより社会全体の新しい発展につながります。

 今回で12回目となる京都大学国際シンポジウムでも、女性が企画・実行グループの中心となったのは初めてだと聞いております。多様な文化的歴史的背景をもつ人々の共存に向けて、さらに既成の学説を超えて、また文系理系という学問の壁も越えて、自由で独創的な議論が生み出され、シンポジウムが大きな成功を収められることを祈念致します。

当日の様子

関連リンク

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