京都大学情報学研究科創立10周年記念式典 挨拶 (2008年11月22日)

第25第総長 松本 紘

松本総長 情報学研究科創立10周年おめでとうございます。
 情報学研究科は1998(平成10)年に設立されております。当時、私は京都大学宙空電波研究センターに所属しておりましたが、私を含めて4分野が情報学研究科の通信情報システム専攻の協力講座として、情報学研究科に参画をしておりました。2004年には私を含めて2分野が工学研究科に移籍いたしましたが、その間、情報学研究科には大変お世話になりました。この場を借りて、厚くお礼を申し上げます。
  さて、情報学研究科が設立された1998年はインターネットが普及しつつあり、情報革命が急速に進みつつある段階でございました。このような時期に、情報工学でもなく通信工学でもなく数理工学でもない、来るべき情報社会を強く意識した、裾野の広い「情報学」を指向された、当時工学研究科長であられました長尾真元京都大学総長はじめ、関係者の皆様の慧眼に深く敬意を表する次第でございます。

 私は第25代京都大学総長に就任させていただきましたが、総長として将来の方向性を指し示す「戦略」の提示が必要であると考えております。さらには、その方向に進んでいくための「対話」を大事にしていきたいと考えております。京都大学が今後なすべきことは多々存在いたしますが、教育とりわけ全人教育がきわめて重要であると考えております。情報学研究科についていえば、今後、情報社会が一層発展していく中で、理科系、文科系を問わず、全学共通教育における情報教育をいかに進めるか、情報学研究科の積極的な提言と強いリーダーシップを是非お願いしたいと考えています。現在、情報教育は各学部で個別的になされており、しかもコンピュータリテラシ教育のレベルに留まっていると聞いております。単にコンピュータが使える教育、あるいはコンピュータの仕組みがわかる教育、というレベルを超えて、情報社会の諸制度、情報知財、セキュリティの教育、さらには新しい情報の利活用によるイノベーション創出などの教育が重要であろうと思います。また、4年後には神戸に毎秒10の16乗(これを兆の上の単位で京(ケイ)と呼びますが)回の演算ができるスーパコンピュータが導入されます。これを使いこなせるシミュレーション科学に精通した人材を特に理科系の大学院においては、分野を問わず大量に育成する必要があります。私の専門分野は電波科学であり、私自身さまざまなシミュレーションプログラムを作成して参りましたので、シミュレーション科学の人材育成の重要性は身にしみてわかっております。情報学研究科では平成21年度概算要求で学部および大学院での情報教育の抜本的な改革を要求されており、また採択される可能性がきわめて高いとも聞き及んでおります。大変心強く思っておりますし、採択されれば京都大学として積極的な支援を行いたいと思っております。

当日の様子 また、京都大学では、基礎科学とともに産官学連携などによる応用研究や新しいイノベーションの創出が重要であり、これらのバランスのとれた研究体制の維持が重要であると考えております。先般、益川敏英先生がノーベル物理学賞を受賞されましたが、益川先生以外にも、皆様ご存知のとおり、ノーベル賞、数学分野のフィールズ賞、ガウス賞など著名な国際的な賞を受賞された京都大学ゆかりの先生方が多数おられます。国際的な賞の受賞が研究のすべてではもちろんありませんが、社会、特に若い学生諸君に及ぼすインパクトは計り知れず大きいものがあります。最近では、山中伸弥教授のiPS細胞の研究が特に注目されています。情報学研究科には、基礎理論の研究者が多数おられ、世界的な活躍をなされております。今後ともしっかりした基礎研究をお願いしたいと思います。また、産官学連携に関しては、情報学研究科で数年前から企画されているICTイノベーションには、研究科から50~60個の研究成果がポスターセッションとして展示され、関東圏も含めて500~600名の多数の企業の方々が参加をされております。私も本年2月に開催されたICTイノベーション2008を見学させていただきましたが、その熱気に驚くとともに多くの方々からの京都大学の情報学研究科への熱い期待を感じました。基礎理論分野の発表も多数あったこと、学生の積極的なプレゼンが多数あったことなども印象的でした。

 情報科学関連の国際的な賞として、ACMのチューリング賞があります。チューリング賞は情報科学の基礎分野と応用分野に与えられる最も権威ある賞ですが、日本人での受賞者はこれまで皆無です。2003年にチューリング賞を受賞されたアラン・ケイ博士を情報学研究科への多大な貢献とスモールトーク(Smalltalk)やパーソナルコンピューティングなどの研究業績に対して、このたび京都大学名誉博士の称号を授与する運びとなりました。ACMチューリング賞などの著名な賞を次々受賞するなど、今後とも情報学研究科には、基礎研究と応用研究のバランスを取りつつ、世界に情報発信をしていただきたいと思っております。

 また、京都大学にはこの他、国際化など、さまざまな課題がありますが、時間の都合で省略させていただきます。いずれにいたしましても、情報学研究科には、創立以来10年間の成果を出発点として、次の10年、20年を見据えた「戦略」を早急にまとめ、その実現のための教育・研究・組織運営の「戦術」を練り、「情報学」を世界に発信し、世界から人が集まる情報学研究科を実現させていただきたく思います。
  簡単ではございますが、情報学研究科創立10周年に当たりまして、総長の挨拶とさせていただきます。

当日の様子

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