KSIシンポジウム 挨拶 (2008年10月18日)

第25代総長 松本 紘

松本総長 2006年度より、東京大学、京都大学、大阪大学、北海道大学、茨城大学を研究拠点に、地球・社会・人間システムの持続可能性に関わる諸課題・側面を包括的に究明するサステイナビリティ学分野の世界最高水準のネットワーク型研究拠点を協働で構築するサステイナビリティ学連携研究機構構想(通称IR3S)がスタートされました。
  京都大学は、この拠点の中で、「グローバルサステイナビリティの構想と展開 - 社会経済システムの改編と科学技術の役割」を大きなテーマとして、学内関係部局が参加した「京都サステイナビリティ・イニシアティブ(KSI)」を設置いたしました。

当日の様子  サステイナビリティは、「環境の世紀」と呼ばれる21世紀の科学技術、経済システムを語る最重要キーワードの一つです。国際社会が抱える喫緊の課題を解決し、地球社会を持続可能なものへと導く地球持続のためのビジョンを構築するために、その基礎となる新しい超学的な学術が「サステイナビリティ学」に他なりません。私たちは、現象解明と問題解決の同時追求、不確実性と予防原則、知識と問題の共進化、グローバルとローカルな問題の解決のトレードオフなど、既存のディシプリンによっては未解決な数多くの難問に挑戦しています。そのために、問題と学術を構造化し、地球・社会・人間システムの再構築およびその相互関係の修復の鍵となる指標と基準を明確化し、自然科学と人文社会科学の融合を可能とする超学的学術体系を構築することを目指しています。それと同時に、その成果を社会と個人を啓発するアウトリーチに役立てていくことをも大きな目標に掲げています。それなくしては、サステイナブルな社会を築くことはできないからです。

松本総長  KSIでは、年1回、一般の方々にむけて「サステイナビリティ学」の構築を目指す活動についてわかりやすくご紹介する場をもっております。それは、多様な側面を有する本テーマについて、文化的側面も含めたいくつかの観点から講演を行い、総合討論を行うことにより、会場の参加者とともに、「サステイナビリティ」について深く考える場でもあり、おかげさまで毎年好評をいただき、今年で3回目となりました。
  今年度は、『ブータンに魅せられて』というご著書があり、まだまだ我々にとっては、秘境であるブータンに10年近くも住まれたご経験のある今枝由郎先生をお迎えしております。今枝先生からは、ブータンの前国王が提唱された、「国民総生産」(Gross National Products)ではなく、「国民総幸福」(Gross National Happiness)に基づいた豊かさという観点から、持続可能な発展と幸せについてお話を伺いたいと考えております。第二部のパネルディスカッションでは、今枝先生に加えて『ヴェニスの商人の資本論』『貨幣論』『会社はだれのものか』などの著作でご高名な東大教授の岩井克人先生、前・経済財政政策担当大臣であり、現在、政策研究大学院大学教授でいらっしゃる大田弘子先生をお迎えし、KSIの佐和隆光教授がコーディネータを務めて、皆さんとともに議論、考察する場といたします。
  秋の一日を、ご来場の皆さんと一緒に、環境、豊かさ、幸せについて考え, 実りある午後にしたいと思っております。