リチウムイオン電池正極材料の非平衡な相変化挙動を世界で初めて観察 ~高速充放電可能な蓄電池の実現へ~

リチウムイオン電池正極材料の非平衡な相変化挙動を世界で初めて観察 ~高速充放電可能な蓄電池の実現へ~

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用語解説

革新型蓄電池先端科学基礎研究(RISING)事業

 本学および産業技術総合研究所関西センターを拠点として、12大学・4研究機関・13企業がオールジャパン体制で集結し、現状比5倍のエネルギー密度を有する革新型蓄電池の実現を目指して推進している、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の共同研究事業。RISINGとは、Research and Development Initiative for Scientific Innovation of New Generation Batteriesの略。

リチウムイオン電池

 高いエネルギー密度を有し、繰り返し充放電特性に優れる二次電池で、携帯電話やノートパソコンなどの携帯型電子機器用の電源として広く普及している。正極・負極の電極と有機電解液が主な構成要素であり、リチウムイオンが動くことで充放電反応が進行する。最近では電気自動車、大型蓄電池への利用が進められており、世界中で研究開発競争が激化している。

相変化

 リチウムイオン電池は充放電反応中に正極・負極中にリチウムイオンが出入りする。この際に正極・負極の結晶構造が変化する。今回取り上げた正極材料LiFePO4は充放電反応中にLiFePO4とFePO4に相分離し、その割合が変化することで反応が進行することがわかっている。本研究ではLiFePO4相とFePO4相の相変化についての解析をおこなった。

大型放射光施設SPring-8

 世界最高性能の放射光を生み出す施設で、兵庫県の播磨科学公園都市にある。理化学研究所が所有し、その運転管理と利用促進は高輝度光科学研究センターが行っている。放射光とは、ほぼ光速で進む電子が、その進行方向を磁石などによって変えられると接線方向に電磁波が発生する光のこと。SPring-8では、この放射光を用いて、物質科学・地球科学・生命科学・環境科学・産業利用などの幅広い分野の研究開発が加速的に進められている。

時間分解X線回折法

 結晶性材料にX線を入射すると、特定の角度で強度の強いX線が検出される。この現象を利用し、結晶の面間隔・対称性を解析する手法をX線回折と呼ぶ。大強度、高エネルギーの放射光X線と、二次元検出器を組み合わせることで、これまで困難であったサブ秒以下での測定時間でX線回折パターンを連続的に取得できる。これが時間分解X線回折法であり、本手法の活用により、物質の反応過程をリアルタイムで解析することが可能である。

RISINGビームラインBL28XU

 SPring-8に設置された蓄電池研究開発に特化したビームライン。これまで、ブラックボックス化していた、電池内部の反応メカニズムを明らかにするために2012年4月に運用を開始した。SPring-8固有の高輝度X線を最大限活用し、電池反応解析に必要な「空間分解能」および「時間分解能」を確保している。利用目的を蓄電池に特化し、電池サンプル準備から測定までの連続的な実験を連続的に行えるユーティリティスペースを備え、非平衡状態・界面被覆状態・反応分布状態等の蓄電池現象をリアルタイム測定するための解析系を実現している。