X線自由電子レーザー(XFEL)を照射したタンパク質微結晶中の硫黄原子からの異常シグナルの検出に成功 -XFELによるタンパク質分子の構造決定に向けた第一歩-

X線自由電子レーザー(XFEL)を照射したタンパク質微結晶中の硫黄原子からの異常シグナルの検出に成功 -XFELによるタンパク質分子の構造決定に向けた第一歩-

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用語解説

X線自由電子レーザー(XFEL:X-ray Free Electron Laser)

X線領域で発振する自由電子レーザー(Free-Electron Laser)であり、 可干渉性、短いパルス幅、高いピーク輝度を持つ。自由電子レーザーは、 物質中で発光する通常のレーザーと異なり、物質からはぎ取られた自由な電子を加速器の中で光速近くに加速し、 周期的な磁場の中で運動させることにより、レーザー発振を行う。

X線回折

結晶のように周期的な構造を持つ物質に対して、ある波長のX線をいろいろな角度から照射すると、特定の角度では強いX線の反射が起こるが、別の角度では反射がほとんど起こらないという現象を観測できる。これは物質を構成する原子により散乱されたX線が、結晶構造の繰り返しによって強めあったり、打ち消しあったりするためである。この現象をX線回折と呼ぶ。

異常散乱

X線の波長が原子のX線吸収端エネルギーと異なるとき、X線が原子で散乱された時の散乱波の強度は原子散乱因子(実数)の2乗に比例する。しかし、X線吸収端近傍では分散が変化し(これを異常分散と呼ぶ)、原子散乱因子は複素数となり、X線の波長によって原子散乱因子が変化する。この異常分散による散乱因子の異常な振る舞いによる散乱強度変化を異常散乱と呼ぶ。

X線結晶構造解析法

X線回折の結果を解析して結晶内部で原子がどのように配置しているかを決定する手法をX線結晶構造解析と呼ぶ。結晶からのX線回折は個々の原子からの散乱の重ね合わせとなり、結晶の散乱因子(結晶構造因子と呼ぶ)は複素数で記述される。X線の散乱強度は結晶構造因子の絶対値の2乗に比例する。X線結晶構造解析は測定したX線の散乱強度から結晶構造因子を求め、さらにそこから結晶を構成する原子(タンパク質)の立体構造を同定する作業である。

位相

位相とは周期的な現象のひとつの周期中の位置を示す無次元量で、通常は角度で表される。結晶構造因子は結晶によるX線回折現象を表す複素数であり、振幅と位相で記すことができる。X線の散乱強度からは結晶構造因子の絶対値は求められるが、その位相については知ることができない。これを解決しようとする努力を位相問題という。

LCLS

米国スタンフォード線形加速器センター(現在のSLAC国立加速器研究所)で建設された、世界で初めてのXFEL施設。Linac Coherent Light Sourceの頭文字をとってLCLSと呼ばれている。2009年12月からから利用運転が開始された。

SACLA

理化学研究所と高輝度光科学研究センターが共同で建設した、日本で初めてのXFEL施設。科学技術基本計画における5つの国家基幹技術の1つとして位置付けられ、2006年度から5年間の計画で整備を進めた。2011年3月に施設が完成し、SPring-8 Angstrom Compact free electron LAserの頭文字を取ってSACLAと命名された。2011年6月に最初のX線レーザーを発振、2012年3月から共用運転が開始され、利用実験が始まっている。諸外国と比べて数分の一というコンパクトな施設の規模にも関わらず、 0.1nm以下という世界最短波長のレーザーの生成能力を有する。

重原子同型置換法

構造が未知のタンパク質について、天然型のタンパク質の結晶と水銀原子(Hg)のような重原子を結晶中でタンパク質の特定部位に結合させた複数の重原子同型置換体結晶からの単結晶X線回折により立体構造を解析する手法。X線回折には結晶内の原子の電子密度が寄与するが、重原子の有無による結晶構造因子(振幅)の変化から位相問題を解決する。

多波長異常散乱法

シンクロトロン放射光やXFELのようにX線の波長を複数選択できる場合、重原子、例えばセレン原子(Se)の異常散乱を利用することで位相を決定することが可能である。この方法を多波長異常散乱法と呼ぶ。タンパク質の構造決定では、もっぱら、Se原子の異常散乱を複数の波長で測定し、位相を決定することが行われる。Se原子はタンパク質中にセレノメチオニンとしてメチオニンの代わりに取り込まれる性質があることから、セレノメチオニン置換タンパク質の結晶と取り込まれたSe原子の異常散乱を使った位相決定はタンパク質X線結晶構造解析で定石となっている。