吉川 潔

吉川 潔

吉川 潔(よしかわ きよし)

研究・国際担当

特命事項
・研究企画・戦略、研究支援、研究規範

メッセージ

 平成20年10月1日から外部戦略を担当してきましたが、平成21年11月1日から、研究・国際担当に所掌替えとなりました。新しい所掌におきましても、これまで同様、京都大学の今後の発展のため微力ながらも全力を尽くす所存です。

 これまでの1年間あまり、外部戦略担当として渉外、大学基金、人材活用、国際展開などの企画・立案を行ってきました。その中で、紙面の関係もあり、とくに大学基金についてのみここで述べたいと思います。

 昨年秋に発生しました世界的な金融危機のこともあり、京都大学が将来にわたり健全で活力ある大学運営を行うためには、早急に長期的な視点からの新たな自律的資金とでもいうべき大学基金を確立することがますます重要になってきたと痛切に感じました。

 実際、米国の大学でも影響は大きく、この10月はじめに訪問したUCバークレーでは、州からの交付金が2割カットされ、それに対処するため、すでに大幅な授業料値上げと教職員に無給休暇(furlough)を課すことで何とかこの危機を乗り越えようとしていました。新学期が始まった9月にはそれに反対する教職員、学生による大規模なWalkoutも行われました。また、税収の落ち込みによる州政府からの交付金減額とともに、民間会社との共同研究も減少し、いわばダブルパンチを受けました。その結果UCバークレーでは、整備された40万人のリストを基盤に、大学卒業生や校友を対象にした30年の実績のあるAlumni活動を東部のハーバード大学やイェール大学のように活発化させるとのことで、さらに30程度ある海外のAlumni組織を対象に、現在頻繁に寄付活動を展開しています。

 平成21年11月11日の新聞には、国の借金が1年前からさらに膨らみ864兆円となり、国民一人あたり654万円の借金を背負っている、との記事がありました。すでに述べましたように、昨年、将来の不確実な時代にあって、京都大学がそのミッションを着実に遂行するためには、まず京都大学の卒業生を核に京都大学支援者の輪を広げ、“大学支援風土の醸成”に早急に取りかかるべきであると考えました。確かに、京都大学を卒業してしまうと、研究室や学部、あるいは地域同窓会やクラブ、同好会などをとおしてのみ“京都大学”との繋がりが保たれますが、京都大学そのものから個々の卒業生へのコンタクトやサービスは、欧米の大学とは大きく異なり、極めて希薄であったことは否めません。

 時代を先取りした新たな支援風土醸成を実行するため、まず、京都からのアクセスが良く、また多くの卒業生の活躍の場である東京の在住者にとっても利便性の高い場所に、従来より広く、誰もがいつでも利用可能で、セキュリティの緩やかな、新たな京都大学東京事務所の開設を企画しました。多くの経緯を経ながらも、総長はじめ多くの方々のご理解と強力なご協力を得て、9月中旬品川駅のすぐ傍のインターシティA棟27階に京都大学東京オフィスを開設することができました。詳しくはhttp://www.kyoto-u.ac.jp/ja/tokyo-officeをご覧ください。

 開所以降、多くの大学(現・旧)教職員、学生、あるいは同窓生・家族、大学にゆかりのある方などが立ち寄られ、数名から130名程度の会合、研究会、事務連絡会などの他、さらには親睦が図れ、かつ情報交換が十分できる眺めが抜群なラウンジ機能もご利用いただいています。また、既に大小の同窓会が開かれており、同窓会同士の横の繋がりも促進され、いずれ京都大学全体の同窓会の活動が大きく促進されると期待しております。さらに、定期的な大学主催の講演会や入試説明会などによる情報発信も始めており、従来弱いとされてきた「京都大学の首都圏での存在感」の強化や、迅速な情報交換による産官学共同研究などの進展も始まりました。

 今後、東京に行った学部学生や大学院生が、立ち寄り先の東京オフィスで常時OBやOGなどと接触して様々な情報・助言を得ることが可能となるなど、とくに、現在千名を超す多くのポスドク、あるいはオーバードクターにとって重要な出会いの場になってくれればと願っています。

 さて、新たな所掌である研究・国際交流についていくつかの抱負を述べたいと思います。

 まず研究ですが、松本総長はその就任挨拶「伝統を基礎とし革新と創造の魅力・活力・実力ある京都大学を目指して」(2008年10月2日)において、2)研究について、特に以下のように強調しておられます。すなわち、
「研究は教育とともに重要な大学の使命です。研究大学として京都大学はこれまで多くの実績を上げてきました。本学は、世界をリードする自然科学、人文科学、社会科学の基礎から応用までの幅広い研究分野において大きな足跡を残し、伝統を築いてきました。(中略) 世界レベルの研究競争を勝ち抜くためには(中略)教員が可能な限り研究に専念できるように、全学的な支援体制を考えねばなりません。さらに、“白眉”と呼びうる優秀な若手研究者を確保し、次世代研究者として育成することが、今後の研究大学、高等教育機関としての最優先事項です。グローバルCOE プログラム、科学振興調整費、受託研究等の申請段階からの支援に加えて、これらが採択された場合の各種支援を全学で組織的に行うことも今後は必要不可欠です。(中略)すなわち、申請書作成、報告書作成、経理処理、科学コミュニケーション等の全学的な人的・物的支援は、個別支援よりも、より効果的と考えられるからです。(以下略)」

 先日新聞に、「大学教員の研究時間の割合が、10年前は50%を超していたのに、最近では3分の1程度となっている。・・」という記事が載っていました。昔なら教授が若手教員の書いた科学研究費補助金の応募内容を何度も丁寧に添削する余裕がありました。事実そのような経験を私も持っており、“当たった”(昔は“採択された”とは言わずに、このように言っていた記憶があります。)時は、あたかも一人前の研究者として認められたように感じ、本当にうれしかった記憶があります。しかし、法人化後の現在は、シニア教員にとって、あまりにも多くの研究とは関連のない雑事に追われ、気持ちはあっても、若手教員の応募書類を見る余裕さえないのが大方の実情と思います。

 そのため、わかりやすい計画調書や申請書の書き方について、若手研究者に指導できるようなシステムづくりを早急に進めたいと考えています。また、大きなグラントを獲得したグループには、初動体制への支援を行いたいと考えています。

 これらを確実にするために、アンケートや研究者とのミィーティングの機会を通じて、受益者、協力者、双方の意向を把握してまいります。

 また、同じく、総長就任挨拶で、4)国際化について、以下のように述べられています。すなわち、
「世界中の主要大学は国際連携を積極的に進めています。京都大学にも海外から多くの連携の打診があります。京都大学はアジア、特に東南アジアで活発なフィールド研究活動を展開しており、強固なネットワークを構築しています。東アジア、アフリカにも研究教育拠点、連携拠点の展開が進んでいます。しかし、(中略)すなわち、南北だけでなく、東西(欧米)にも拠点ネットワークを構築し、京都大学の国際的プレゼンスを高め、優秀な留学生、研究者の確保を図ることが急務です。その実現のためには、欧州での拠点設置、米国でのネットワーク活用などの措置を迅速に講じる必要があります。また、さらに国際化を進めるためには、留学生寮、外国人研究者の生活環境整備などを計画的に推進(以下略)」とあります。

 地球温暖化によるエネルギー資源利用の制約(CO2排出)や、それらに関連する希少鉱物資源の需要急増化、あるいは、石油資源の枯渇化などで、とくに、アジア、アフリカ諸国から京都大学への国際連携打診が急速に増えており、とくに、学生交流や若手研究者交流、あるいは科学技術分野での研究協力要請が求められています。さらに、長年言われてきた留学生数や外国人研究者数の増員強化もかなり成果を上げてきましたが、まだ十分ではなく、奨学金や住環境の改善など多くの課題を解決していく必要があります。

 以上、研究・国際のいくつかを簡単に述べさせていただきましたが、今後、さらに、多くの事案が増えてくると思います。教職員が高い志を維持して教育、研究、あるいはその支援に専念できる環境の構築こそが、京都大学の発展には必要不可欠のものと信じています。皆様方のご理解、ご支援を得ながら、着実かつ迅速にその実現に向けて進めたいと考えておりますので何卒よろしくご理解、ご協力をお願い申し上げます。