中西重忠名誉教授、深谷賢治 理学研究科教授が日本学士院会員に選ばれました。(2009年12月14日)

中西重忠名誉教授、深谷賢治 理学研究科教授が日本学士院会員に選ばれました。(2009年12月14日)

 このたび、日本学士院会員に、中西重忠 名誉教授および深谷賢治 理学研究科教授が選ばれました。日本学士会は、学術上功績顕著な科学者を優遇するための機関として、学術の発達に寄与するため必要な事業を行うことを目的とするものです。以下に両氏の略歴、業績等を紹介します。

中西重忠 名誉教授

 中西重忠名誉教授は昭和41年京都大学医学部を卒業し、昭和46年同大学院医学研究科博士課程を終え、米国国立衛生研究所客員研究員を経て、昭和49年京都大学医学部医化学教室助教授に採用され、昭和56年同医学部免疫研究施設第2部門(のちの大学院医学研究科生体情報科学講座)教授に就任しました。平成11年より同大学院生命科学研究科認知情報学講座教授も併任し、また平成12年から2年間同大学院医学研究科長、医学部長を務めました。平成17年3月に定年退職し名誉教授称号授与、財団法人大阪バイオサイエンス研究所所長に就任後も研究を継続中です。

 中西名誉教授は、分子神経科学の研究を展開し、脳神経系の情報伝達と脳機能の発現の制御機構に関して画期的な成果を挙げました。同名誉教授は種々の活性ペプチドの前駆体の構造と制御機構を明らかにし、さらに解析が困難であった受容体およびイオン・チャンネルの遺伝子の新しい単離法を開発し、神経ペプチドおよび興奮性神経伝達物質グルタミン酸の受容体の遺伝子群とこれら受容体の脳機能における役割を明らかにしました。また同名誉教授は、特定の神経回路の伝達機構を個体レベルで解析出来る新しい手法を開発し、これらの先駆的研究によって記憶、学習や視覚、嗅覚系の情報伝達の基本的な機構を明らかにしました。同名誉教授の研究業績は、独自の手法の開発のもとに神経情報の基本原理を明らかにしたものであり、医学、生命科学の発展に大きく貢献するものです。

 これら一連の研究に対して、同名誉教授にはこれまでに朝日賞、米国ブリストル・マイヤーズ・スクイブ神経科学賞、慶應医学賞、恩賜賞・日本学士院賞、米国グルーバー神経科学賞ほか多数の賞が授与され、平成18年には文化功労者に選ばれました。これまでに米国芸術・科学アカデミー外国名誉会員、米国科学アカデミー外国人会員に選出されています。今回の日本学士院会員への選出は、これまでの同名誉教授の一連の業績が評価されたものです。

深谷賢治 理学研究科教授

 深谷賢治教授は、昭和56年東京大学理学部を卒業し、同58年同大学院理学系研究科修士課程を修了後、同理学部助手に採用、同教養学部、理学部助教授を経て、平成6年京都大学理学部教授に就任し、現在に至っています。

 同教授の初期の研究は、「長さ」や「面積・体積」などが定まる空間、リーマン多様体に関わるものであり、リーマン多様体が退化する現象すなわち崩壊現象を研究されました。山口孝男教授(現筑波大学)との共同研究である「基本群と曲率」への応用は、大域リーマン幾何学の基本定理の一つです。測度付き距離空間の収束概念は、崩壊現象とラプラス方程式の関係の研究から生まれました。
  同教授は、次にゲージ理論の数学的研究を行い、平成5年に2・3・4次元にまたがる位相的場の理論を、ある(A無限大)圏からの函手として定式化することを提唱され、この圏は、後に深谷圏と呼ばれるようになります。
  平成6年にロシア人数学者コンセビッチは、深谷圏の定義を使い、ホモロジー的ミラー対称性予想を提唱し、ミラー対称性はシンプレクティック多様体の深谷圏と複素多様体の連接層の導来圏の対応であると予想しました。この予想は、その後の研究の指導原理となっています。
  平成8年には、従来複素解析関数あるいは多項式の範疇で考えられていた「特異点をもつ空間」の概念を、微分可能関数に広げる「倉西構造」とその多価摂動の概念を小野 薫教授(現北海道大学)と創始し、ハミルトン力学系の周期軌道についてのアーノルド予想に応用しました。
  深谷圏の最も一般的で数学的に厳密な定義は困難で、その後10年を超える研究を要しましたが、倉西構造、A無限大構造のホモロジー代数などに基づく、フレアーホモロジーや深谷圏の最も一般的な形での定義は、平成21年にY.-G. Oh教授(現Wisconsin大学Madison校)、太田啓史教授(現名古屋大学)、小野 薫教授との共同研究で完成しました。

 これら一連の研究に対して、同教授にはこれまでに朝日賞、日本学士院賞、井上学術賞、日本数学会春季賞などが授与されました。今回の日本学士院会員への選出は、これまでの同教授の一連の業績が評価されたものであり、大変喜ばしいことです。